社会福祉法人M&A・合併・事業譲渡トータルプロデュース承ります
社会福祉法人のM&A(売却・買収)合併(新設合併・吸収合併)事業譲渡(売買・譲渡)の斡旋・仲介や譲渡手続のお手伝いをさせて頂きます。
経済産業省M&A登録支援機関・スモールM&A認定アドバイザーが、新たなステージを踏み出し、更なる社会貢献とご自身の人生の充実を目指す皆様の、ご事情やお気持を十分にお聞きして、ご満足ご安心頂けますよう、
● 社会福祉法人の事業の承継・譲渡・売却・買取を希望される売り手情報と買い手情報のご案内
● 事業承継を希望される地域のニーズや競合の調査
● どのような事業承継の形態が適切かの事前のご相談
● 事業承継を希望される売り手法人様と買い手法人様の協議の支援
● 事業承継計画立案の支援
● 事業承継に必要な各種の手続の代行
● 事業承継に必要な各種の許可認可の申請代行
● 事業承継に必要な各種の書類の準備
● 助成金・補助金の申請や金融機関の融資などの資金調達支援
● 求人手続・採用面接など人材の確保
● 社会福祉法人の設立・合併・解散の手続
● 社会福祉法人の事業承継に関する法律問題についての企業法務
● 事業承継後の法人経営に関する諸問題への対応・コンサルティング ほか
社会福祉法人の承継の諸手続を、すべて代行・サポートさせて頂きます。
社会福祉法人の合併・事業譲渡などM&Aの諸手続は、専門の行政書士にお任せください。
無料相談・出張相談、承ります
ご自宅、お勤め先、ご希望の場所への出張相談、承ります。
どうぞ、お気軽にお電話ください
☎0797-62-6026
➡(株)ブレイントラストジャパン(経済産業省・中小企業庁M&A登録支援機関)
社会福祉法人の事業承継・M&Aのサポート、すべて承ります
■事業承継M&Aの実行手続の支援・必要書類の作成
【1】買い手探し
(1)業務委託契約の締結
アドバイザー契約を締結
(2)企業概要書の作成
対象会社の概要につきアドバイザーとして作成
(3)打診活動
候補先を探す際に初期的な関心を得るため対象会社を特定せず打診に活用する匿名資料(ノンネームシート)を作成
(4)秘密保持契約(NDA)の締結
初期的な関心を示した会社に対して締結
(5)企業概要書の提示
実際に買収するか否か判断する資料
(6)意向表明書の取得
関心を示した会社が対象会社に対して一方的に条件等を提示
(7)基本合意書の作成
意向表明書の条件に基づいて締結
【2】実行の手続
(1)買収監査(デューデレジェンス)の資料整理
対象会社の財務・税務・法務等の情報につき必要に応じて専門家に依頼して実態を調査
(2)買収条件の交渉
(3)最終契約の締結
表明保証、取引実行の前提条件、補償事項も記載
■ 新規事業の開業と運営
◆ 許可認可取得の申請代行
◆ 各種法人設立の手続
◆ 各種法人の合併・解散の手続
◆ 企業法務、法的文書作成
■ 資金調達の支援
◆ 補助金、助成金の申請手続
◆ 公的融資の申請手続
◆ 金融機関からの融資の支援
■ 人材の確保
◆ 人材の採用(求人・面接)の支援
◆ 人員の配置(法人の役員構成)
最新の案件情報ご案内します
※詳しい案件情報につきましてはお電話にてお問合せ頂きますようお願い申し上げます。
どうぞ、お気軽にお電話ください
☎0797-62-6026
社会福祉法人の許可認可の申請代行、承ります
※ その他、各種の事業承継のサポートを承ります。何なりとご相談下さい。
どうぞ、お気軽にお電話ください
☎0797-62-6026
社会福祉法人の事業承継・M&Aは、専門の行政書士にお任せ下さい
● 売り手情報と買い手情報のご案内、希望地域のニーズや競合の調査、適切な事業承継の形態についての事前のご相談、売り手法人様と買い手法人様の協議の支援、事業承継計画立案の支援、事業承継に必要な各種の手続の代行、事業承継に必要な各種の許可認可の申請代行、事業承継に必要な各種の書類の準備、助成金・補助金の申請や金融機関の融資などの資金調達支援、求人手続・採用面接など人材の確保、各種法人の設立・合併・解散の手続、事業承継に関わる様々な法律問題についての企業法務、事業承継後の経営の諸問題への対応・コンサルティングほか、社会福祉法人の事業承継のための諸手続を、すべて代行・サポートさせて頂きます。
また、事業承継(M&A)の実行の際の、買い手探し(アドバイザー契約)、企業概要書作成、打診活動(匿名資料ノンネームシート作成)、秘密保持契約(NDA)締結、意向表明書取得、基本合意書作成、買収監査(デューデレジェンス)資料整理、買収条件交渉、最終契約締結(表明保証、取引実行の前提条件、補償事項記載)など、契約書・必要書類の作成も承ります。
社会福祉法人の事業承継の手続は、専門の行政書士にお任せください。
● 税理士・社会保険労務士・司法書士・弁護士・公証人・土地家屋調査士・不動産鑑定士、その他、経営・金融・保険などの専門家とも常に連携しております。
● ご相談窓口一つで、様々なご事情やご要望に、適切に迅速に対応させて頂けると存じます。
どうぞ、お気軽にお電話ください
☎0797-62-6026
無料相談・出張相談、承ります
■ ご相談承り窓口(芦屋)でも、出張でも、承ります。
◆ 神戸市・芦屋市・西宮市・尼崎市・伊丹市・宝塚市・大阪市などの皆様には、芦屋市大桝町(三八通り)に、ご相談窓口をご用意しており、多くの皆様にご利用頂き、ご好評を賜っております。
JR芦屋から徒歩5分、阪神芦屋から徒歩5分、阪急芦屋川から徒歩8分、専用駐車場もございます。どうぞ、お気軽にお越しください。
◆ ご予約頂ければ、平日夜間、土曜・日曜のご相談(面談)も、承ります。
出張相談、全国対応いたします お問い合せください
■ 出張相談は、下記の通り、全国対応で承っております。お問い合せ下さい。
【北海道】・札幌市・函館市・小樽市・旭川市・室蘭市・釧路市・帯広市・北見市・夕張市・岩見沢市・網走市・留萌市・苫小牧市・稚内市・美唄市・芦別市・江別市・赤平市・紋別市・士別市・名寄市・三笠市・根室市・千歳市・滝川市・砂川市・歌志内市・深川市・富良野市・登別市・恵庭市・伊達市・北広島市・石狩市・北斗市
【青森県】・青森市・八戸市・弘前市・十和田市・むつ市・五所川原市・三沢市・黒石市・つがる市・平川市
【岩手県】・盛岡市・宮古市・大船渡市・花巻市・北上市・久慈市・遠野市・一関市・陸前高田市・釜石市・二戸市・八幡平市・奥州市・滝沢市
【宮城県】・仙台市・石巻市・塩竈市・気仙沼市・白石市・名取市・角田市・多賀城市・岩沼市・登米市・栗原市・東松島市・大崎市・富谷市
【秋田県】・秋田市・能代市・横手市・大館市・男鹿市・湯沢市・鹿角市・由利本荘市・潟上市・大仙市・北秋田市・にかほ市・仙北市
【山形県】・山形市・米沢市・鶴岡市・酒田市・新庄市・寒河江市・上山市・村山市・長井市・天童市 ・東根市・尾花沢市・南陽市
【福島県】・福島市・会津若松市・郡山市・いわき市・白河市・須賀川市・喜多方市・相馬市・二本松市 ・田村市・南相馬市・伊達市・本宮市
【茨城県】・水戸市・日立市・土浦市・古河市・石岡市・結城市・龍ケ崎市・下妻市・常総市・常陸太田市・高萩市・北茨城市・笠間市・取手市・牛久市・つくば市・ひたちなか市・鹿嶋市 ・潮来市・守谷市・常陸大宮市・那珂市・筑西市・坂東市・稲敷市・かすみがうら市・桜川市 ・神栖市・行方市・鉾田市・つくばみらい市・小美玉市
【栃木県】・宇都宮市・足利市・栃木市・佐野市・鹿沼市・日光市・小山市・真岡市・大田原市・矢板市・那須塩原市・さくら市・那須烏山市・下野市
【群馬県】・前橋市・高崎市・桐生市・伊勢崎市・太田市・沼田市・館林市・渋川市・藤岡市・富岡市・安中市・みどり市
【埼玉県】・さいたま市・川越市・熊谷市・川口市・行田市・秩父市・所沢市・飯能市・加須市・本庄市・東松山市・春日部市・狭山市・羽生市・鴻巣市・深谷市・上尾市・草加市・越谷市・蕨市・戸田市・入間市・朝霞市・志木市・和光市・新座市・桶川市・久喜市・北本市・八潮市・富士見市・三郷市・蓮田市・坂戸市・幸手市・鶴ヶ島市・日高市・吉川市・ふじみ野市・白岡市
【千葉県】・千葉市・銚子市・市川市・船橋市・館山市・木更津市・松戸市・茂原市・成田市・佐倉市・東金市・旭市・習志野市・柏市・勝浦市・市原市・流山市・八千代市・我孫子市・鴨川市・鎌ケ谷市・君津市・富津市・浦安市・四街道市・袖ケ浦市・八街市・印西市・白井市・富里市・南房総市・匝瑳市・香取市・山武市・いすみ市・大網白里市
【東京都】・千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・台東区・墨田区・江東区・品川区・目黒区・大田区・世田谷区・渋谷区・中野区・杉並区・豊島区・北区・荒川区・板橋区・練馬区・足立区・葛飾区・江戸川区・八王子市・立川市・武蔵野市・三鷹市・青梅・府中市・昭島市・調布市・町田市・小金井市・小平市・日野市・東村山市・国分寺市・国立市・福生市・狛江市・東大和市・清瀬市・東久留米市・武蔵村山市・多摩市・稲城市・羽村市・あきる野市・西東京市
【神奈川県】・横浜市・川崎市・相模原市・横須賀市・平塚市・鎌倉市・藤沢市・小田原市・茅ヶ崎市・逗子市・三浦市・秦野市・厚木市・大和市・伊勢原市・海老名市・座間市・南足柄市・綾瀬市
【新潟県】・新潟市・長岡市・三条市・柏崎市・新発田市・小千谷市・加茂市・十日町市・見附市・村上市・燕市・糸魚川市・妙高市・五泉市・上越市・阿賀野市・佐渡市・魚沼市・南魚沼市・胎内市
【富山県】・富山市・高岡市・魚津市・氷見市・滑川市・黒部市・砺波市・小矢部市・南砺市・射水市
【石川県】・金沢市・七尾市・小松市・輪島市・珠洲市・加賀市・羽咋市・かほく市・白山市・能美市・野々市市
【福井県】・福井市・敦賀市・小浜市・大野市・勝山市・鯖江市・あわら市・越前市・坂井市
【山梨県】・甲府市・富士吉田市・都留市・山梨市・大月・韮崎市・南アルプス市・北杜市・甲斐市・笛吹市・上野原市・甲州市・中央市
【長野県】・長野市・松本市・上田市・岡谷市・飯田市・諏訪市・須坂市・小諸市・伊那市・駒ヶ根市・中野市・大町市・飯山市・茅野市・塩尻市・佐久市・千曲市・東御市・安曇野市
【岐阜県】・岐阜市・大垣市・高山市・多治見市・関市・中津川市・美濃市・瑞浪市・羽島市・恵那市・美濃加茂市・土岐市・各務原市・可児市・山県市・瑞穂市・飛騨市・本巣市・郡上市・下呂市・海津市
【静岡県】・静岡市・浜松市・沼津市・熱海市・三島市・富士宮市・伊東市・島田市・富士市・磐田市・焼津市・掛川市・藤枝市・御殿場市・袋井市・下田市・裾野市・湖西市・伊豆市・御前崎市・菊川市・伊豆の国市
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【大阪府】・大阪市・堺市・岸和田市・豊中市・池田市・吹田市・泉大津市・高槻市・貝塚市・守口市・枚方市・茨木市・八尾市・泉佐野市・富田林市・寝屋川市・河内長野市・松原市・大東市・和泉市・箕面市・柏原市・羽曳野市・門真市・摂津市・高石市・藤井寺市・東大阪市・泉南市・四條畷市・交野市・大阪狭山市・阪南市
【兵庫県】・神戸市・姫路市・尼崎市・明石市・西宮市・洲本市・芦屋市・伊丹市・相生市・豊岡市・加古川市・赤穂市・西脇市・宝塚市・三木市・高砂市・川西市・小野市・三田市・加西市・丹波篠山市・養父市・丹波市・南あわじ市・朝来市・淡路市・宍粟市・加東市・たつの市
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【和歌山県】・和歌山市・海南市・橋本市・有田市・御坊市・田辺市・新宮市・紀の川市・岩出市
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【宮崎県】・宮崎市・都城市・延岡市・日南市・小林市・日向市・串間市・西都市・えびの市
【鹿児島県】・鹿児島市・鹿屋市・枕崎市・阿久根市・出水市・指宿市・西之表市・垂水市・薩摩川内市・日置市・曽於市・霧島・いちき串木野市・南さつま市・志布志市・奄美市・南九州市・伊佐市・姶良市
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※なお、下記の地域は、初回の出張相談の日当を無料とさせて頂きます。
【東京都】・世田谷区・練馬区・大田区・江戸川区・足立区・杉並区・板橋区・江東区・葛飾区・品川区・北区・新宿区・中野区・豊島区・目黒区・墨田区・港区・渋谷区・荒川区・文京区・台東区・中央区・千代田区
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【浜松市】・浜松市中区・浜松市東区・浜松市西区・浜松市南区・浜松市北区・浜松市浜北区・浜松市天竜区
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これからの人生、どんな想いを貫きますか? 将来のビジネス、どんな想いで挑みますか?
あなたの想いを共有しながら、事業戦略(ビジネスモデル)・人生設計(ライフプラン)・生活様式(ライフスタイル)に、適切な方向と最善の方法をご提案、お手伝いさせて頂きます。
こちらもご覧ください・・・
社会福祉法人の合併・事業譲渡マニュアルのご案内
※厚生労働省「社会福祉法人の合併・事業譲渡マニュアル」(厚生労働省 福祉基盤課 令和2年9月11日より抜粋)をご案内させて頂きます。ご参考になれば幸いです。
(1)事業譲渡等におけるポイントと留意事項
【1】事業譲渡等とは
事業譲渡等とは、特定の事業を継続していくため、当該事業に関する組織的な財産を他の法人に譲渡・譲受することであり、土地・建物などの単なる物質的な財産だけではなく、事業に必要な有形的・無形的な財産のすべてを他の法人に譲渡・譲受することです。事業譲渡と事業譲受を総称して「事業譲渡等」とします。以下に事業譲渡等における主なポイントと留意事項をまとめます。
・社会福祉法人が関係する事業譲渡等は、事業に関わる利用者へのサービス提供の継続に資するためのものと考えられます。
・社会福祉法において、事業譲渡等に関する規定は設けられていませんが、取引行為の一類型であるため、事業譲渡等は可能と解釈されています。ただし、社会福祉法人の事業譲渡等には、一般的に法人の定款変更手続、基本財産の増減等が発生するものと考えられ、所轄庁の認可・届出が必要となります。なお、社会福祉法人は『社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人』であるため(社会福祉法第 22 条)、社会福祉法人が行っている社会福祉事業の全部を譲渡することはできないと考えられます。
・社会福祉法人における基本財産は、法人存立の基礎となるものであり、これを処分し、又は担保に供しようとする場合には、所轄庁の承認を受けなければならず、社会福祉法人の目的遂行上真に必要である場合に限り認められるものと考えられます。
【2】譲渡事業が譲受法人で継続可能かどうか事前確認等
社会福祉事業は所轄庁による認可が必要な事業も多くあり、また社会福祉事業を実施できる法人格が制限されているものもあります。譲渡事業が譲受法人で継続可能かどうか、当該事業の許認可等を行う行政庁(以下この章において「事業所管行政庁」という。)に必ず事前確認し、必要な協議を終えておくようにしてください。
譲渡事業が譲受法人で継続可能でない場合の事業譲渡は実施できません。
特に、社会福祉事業は第1種・第2種社会福祉事業に区分され、このうち第1種社会福祉事業については、原則として行政及び社会福祉法人しか経営主体となれません。
<第1種社会福祉事業>
・救護施設 ・更生施設 ・その他の生計困難者を無料又は低額な料金で入所させて生活の扶助を行うことを目的とする施設 ・生計困難者に対する助葬事業
・乳児院 ・母子生活支援施設 ・児童養護施設 ・障害児入所施設
・児童心理治療施設 ・児童自立支援施設
・養護老人ホーム ・特別養護老人ホーム ・軽費老人ホーム
・障害者支援施設 ・婦人保護施設 ・授産施設 ・生活福祉資金貸付事業
事業の譲渡においては、利用者へのサービス提供が継続されることが何よりも重要です。このため、譲渡法人では相手方法人を様々な視点から調査分析し、譲受先法人を選定することが重要です。こうした過程は、所轄庁及び事業所管行政庁から説明を求められた場合には説明責任がありますので、よく整理しておくとよいでしょう。
【3】行政への相談(各種手続)
事業譲渡等は、基本財産の移動を伴うこともあり、所轄庁の承認や国庫補助事業により取得した財産の処分にかかる承認、さらには、独立行政法人福祉医療機構又は民間金融機関の借入債務にかかる各種手続(抵当権の設定等)などクリアすべきものも多いと考えられます。このため、所轄庁等への事前の相談・協議を並行して進めていくことが重要です。
また、事業譲渡等は、譲渡元である法人における施設の廃止手続と、譲渡先における施設の認可・指定等の手続をスムーズに実施することが求められます。このため、所轄庁への事前相談等と同時に、事業所管行政庁にも事前相談を進めていくことが必要となります。
【4】特別の利益供与の禁止等
平成28年改正法により、役員等関係者への特別な利益供与の禁止、競業及び利益相反取引の制限等が規定されています。
◇特別の利益供与の禁止
特別の利益とは、社会通念に照らして合理性を欠く不相当な利益の供与その他の優遇のことを指し、例えば以下のようなものが該当します。【指導監査ガイドライン Ⅳ管理 4その他(1)特別の利益供与の禁止より】
A: 法人の関係者からの不当に高い価格での物品等の購入や賃借
B: 法人の関係者に対する法人の財産の不当に低い価格又は無償による譲渡や賃貸(規程に基づき福利厚生として社会通念に反しない範囲で行われるものを除く。)
C: 役員等報酬基準や給与規程等に基づかない役員報酬や給与の支給
事業譲渡等の相手先によっては、上記AやBに抵触するおそれがあることから、十分な留意が必要となります。
※社会福祉法第27条(特別の利益供与の禁止)
第27条 社会福祉法人は、その事業を行うに当たり、その評議員、理事、監事、職員その他の政令で定める社会福祉法人の関係者に対し特別の利益を与えてはならない。
※社会福祉法施行令第13条の2(特別の利益を与えてはならない社会福祉法人の関係者)第13条の2 法第27条の政令で定める社会福祉法人の関係者は、次に掲げる者とする。
一 当該社会福祉法人の設立者、評議員、理事、監事又は職員
二 前号に掲げる者の配偶者又は三親等内の親族
三 前2号に掲げる者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
四 前2号に掲げる者のほか、第1号に掲げる者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者
五 当該法人の設立者が法人である場合にあっては、その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として省令で定める者
◇利益相反取引の制限
利益相反取引の制限では、例えば、甲社会福祉法人の理事Aが乙株式会社の代表として乙株式会社のために甲社会福祉法人と売買契約を締結する場合は利益相反取引に該当することから、このような事業譲渡を行う場合には、理事会において重要な事実を開示し、その承認を受ける必要があります。
※社会福祉法第45条の16第4項によって準用される一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第84条(競業及び利益相反取引の制限)
第84条 理事は、次に掲げる場合には、理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 理事が自己又は第三者のために社会福祉法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 理事が自己又は第三者のために社会福祉法人と取引をしようとするとき。
三 社会福祉法人が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において社会福祉法人と当該理事との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 (略)
【5】事業譲渡等の支払対価の決定プロセスの留意点
事業譲渡等の支払対価を決定するためには、事業の適切な評価が必要となります。
事業を評価するにあたっては、様々な視点からの調査・分析*を行います。
・財務調査・分析
・法務調査・分析
・その他調査・分析(人事、IT 等)
特に「財務調査・分析」は、譲受ける資産・負債の価値が適切かどうかを検証し、財務リスクを明確にするものであり、支払対価の決定にあたって重要な意義を持ちます。
<主な検証ポイント>(譲渡法人に対して調査協力を求め、情報を収集・分析します)
・会計方針の把握、検証
・帳簿査閲による異常な取引の内容確認
・経営成績、財政状態、主要な経営指標の経年比較分析
・予算・実績差異の分析
・銀行残高証明書の入手、照合
・固定資産の実在性確認
・引当金の計上有無、妥当性の検討
・損害賠償請求の有無確認
・役員報酬、給与水準の検討
また、上記に加えて、外部環境分析(市場の状況や競合する他法人の状況)を実施することで、将来的な財務リスクを支払対価の決定に反映することも可能です。なお、調査・分析にあたっては、弁護士や公認会計士等の専門家を活用することが有効となる場合があります。(*調査・分析のことをデューデリジェンスと呼ぶことがあります)
支払対価の検討は、社会福祉法人の公的財産が毀損することのないよう、慎重に行う必要があります。こうした過程は、所轄庁等から説明を求められた場合には説明責任がありますので、よく整理しておくとよいでしょう。
【6】法人外流出の防止と支払対価の関係
社会福祉法人において、社会福祉事業の剰余金は一定の条件のもと法人本部会計又は公益事業に充てることができますが、法人外への対価性のない支出は認められていません。
(「社会福祉法人が経営する社会福祉施設における運営費の運用及び指導について」H16.3.22 局長通知 ほか)
このような法人外への資金流出禁止の前提があるため、事業譲渡等の支払対価との関係で以下の点について留意する必要があります。
・譲渡側
自法人における譲渡事業の価値を見積り、少なくともその価値以上の受取対価でなければ、法人外への資金流出に該当すると考えられる。
・譲受側
自法人における譲受事業の価値を見積り、少なくともその価値以下の支払対価でなければ、法人外への資金流出に該当すると考えられる。
事業譲渡等は組織の移転であるため、当該事業の価値は、対象事業の不動産の時価と移転する他の資産及び負債だけではなく、事業計画(将来の損益予測や修繕計画など)を加味したものと考えられます。単に国庫補助金を返還しないための無償譲渡など、事業の価値を適切に見積らずに取引を行うと、法人外流出の可能性があることに特に注意する必要があります。
また、平成28年改正法では、社会福祉法人と評議員、役員等の委任規定、いわゆる善管注意義務、義務違反の場合における法人への損害賠償責任、第三者への不法行為責任などが明確化されています。このため、法人評議員、理事、監事等は、社会福祉法人に財産上の損害を与えることが無いよう職務を行う必要があります。
※社会福祉法第38条(社会福祉法人と評議員等との関係)
第38条 社会福祉法人と評議員、役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
※民法644条(受任者の注意義務)
第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
※社会福祉法第45条の20(役員等又は評議員の社会福祉法人に対する損害賠償責任)
第45条の20 理事、監事若しくは会計監査人(以下この款において「役員等」という。)又は評議員は、その任務を怠ったときは、社会福祉法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 理事が第45条の16 第4項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第84条第1項の規定に違反して同項第1号の取引をしたときは、当該取引によって理事又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3 第45条の16 第4項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第84条第1項第2号又は第3号の取引によって社会福祉法人に損害が生じたときは、次に掲げる理事は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第45条の16 第4項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第84条第1項の理事
二 社会福祉法人が当該取引をすることを決定した理事
三 当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事
※社会福祉法第45条の21(役員等又は評議員の第三者に対する損害賠償責任)
第45条の21 役員等又は評議員がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等又は評議員は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 (略)
※社会福祉法第 130 条の 2
第130条の2 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は社会福祉法人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該社会福祉法人に財産上の損害を加えた ときは、7年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 評議員、理事又は監事
二 民事保全法第 56 条に規定する仮処分命令により選任された評議員、理事又は監事の職務を代行する者
三 第 42 条第2項又は第 45 条の6第2項(第 45 条の 17 第3項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時評議員、理事、監事又は理事長の職務を行うべき者
2・3 (略)
【7】国庫補助金の取り扱い
社会福祉法人が国庫補助金を受けて取得した財産を処分する際には、厚生労働大臣等の承認が必要となります。
※厚生労働省所管一般会計補助金等に係る財産処分承認基準における財産処分の種類
・転 用:補助対象財産の所有者の変更を伴わない目的外使用
・譲 渡:補助対象財産の所有者の変更
・交 換:補助対象財産と他人の所有財産との交換
・貸 付:補助対象財産の所有者の変更を伴わない使用者の変更
・取壊:使用を止め、取り壊すこと
・廃 棄:使用を止め、廃棄処分すること
承認にあたっては、交付した国庫補助金に相当する額の返還(国庫納付)や、返還を求めない場合であっても処分を制限するなどの条件を付すこととなっています。なお、国庫補助金を返還しないための無償譲渡は、法人外流出の可能性があることに特に注意する必要があります。
【8】利用者等への事前説明と理解の醸成
事業譲渡等の対象となる施設の利用者については、契約主体の変更になるため、利用者や利用者家族への説明及び個別同意を得る(再契約を行う)必要があります。
事業譲渡等によって、利用契約の再締結の手続の有無や方法(例:高齢者施設における入所契約及び重要事項説明書等)、サービス内容や利用料金の変更の有無等についてあらかじめ十分に説明した上で、同意を得るようにしてください。
【9】職員への事前説明・了解
業譲渡等において、譲渡法人から譲受法人へ職員を転籍させる場合、事業譲渡等においては、既存の労働条件を維持したまま移籍するのが原則となります。
(事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(H28 厚生労働省告示第 318 号))
労働条件を変更する際には、転籍対象者に転籍後の労働条件を記載した同意書を提示し、同意をとっておく必要があります。また、退職・雇用を取り扱う場合は、譲渡会社では退職届を受領し、譲受会社では雇用契約を締結するなどの手続きが必要になります。
なお、労働条件が変更される場合は、就業規則と労働契約等との関係に注意し、所轄労働基準監督署への届出と、届出をしたうえで、職員への周知を行う必要があります。なお、就業規則の労働基準監督署への届出を行う際には、過半数労働組合がない場合、事業場ごとに過半数代表者を選出して、就業規則に関する意見を聴取しなくてはなりません。
【10】地域住民への事前説明
事業譲渡等によって、特に地域における福祉サービスについて変更等が生じる場合には、地域住民や自治会への説明を行うことが望まれます。社会福祉法人の事業譲渡等の経緯及び今後の実施事業計画に関して理解を得ておくようにしてください。
【11】不適切と考えられる例
事業譲渡等の内容は、移転する事業、社会福祉法人や地域ニーズなどによって様々なケースが想定できます。以下は不適切と考えられる例ですが、これ以外であればすべて適切というものではありません。事業譲渡等を行う場合には、当該事業に関わる利用者へのサービス提供の継続性を第一に考え、社会福祉法人内で十分検討を行い実施することが必要です。
<例1>
社会福祉法人Aから他の法人Bに対し、①~③をすべて満たすような事業の譲渡しが行われた場合
- 社会福祉法第27 条の特別の利益供与の禁止の対象となる社会福祉法人の関係者 が、事業を譲受けた法人Bの関係者であった場合
- 当該事業の譲渡し価格に関し、社会福祉法人Aにおける評価の過程が明確でなく、適切な価格なのか判断できない場合
③(イ)から(ニ)のような特段の事情がない場合
(イ) 社会福祉法人Aにおいて、事業を継続しがたい特段の理由がある。
(ロ) 社会福祉法人Aにおいて、当該事業の収支が赤字で推移しており、将来も改善する見通しがない。
(ハ) 当該地域において、事業の譲渡しが可能な他の法人がない。
(ニ) 当該地域において、当該事業のニーズが減少する見通しがある。
<例2>
社会福祉法人Cが他の法人Dから、次の①、②をすべて満たすような事業の譲受けが行われた場合
- 社会福祉法第 27 条の特別の利益供与の禁止の対象となる社会福祉法人の関係者が、事業を譲渡した法人Dの関係者であった場合
- 当該事業の譲受け価格に関し、社会福祉法人Cにおける評価の過程が明確でなく、適切な価格なのか判断できない場合
(2)事業譲渡等の手続の全体像
【1】事業譲渡等における手続の構成
事業譲渡等において個別の手続は、以下のように大きく 5 つに分類されます。
- 法人間調整(合意形成・契約)
事業譲渡等を検討している法人間での調整業務
- 調査・検討の準備
- 事前調査
- 事業譲渡等の合意形成
- 法令手続き(行政等との調整)
- 事業に係る各種申請
- 定款の変更
- 会計・税務処理
III. 資産・負債等の移管手続
- 資産・負債等の移管
- 関係者調整等(職員や利用者等との調整)
・譲渡事業等に関係する職員との調整
- 人事・労務関連
・譲渡事業等に関係する利用者や家族への説明及び地域への説明
- 利用者や利用者家族、地域への説明
- 事業譲渡等の後に必要となる手続等
事業譲渡等後の法人内運営に必要となる手続き事項
- 規程・マニュアル類、システムなどの整備
(3) 事業譲渡等手続の解説
1 . 調査・検討の準備
- 実施事項
(1)譲渡事業が譲受法人で継続可能かどうか事前確認等
社会福祉事業は所轄庁による認可が必要な事業も多くあり、また社会福祉事業を実施できる法人格が制限されているものもあります。譲渡事業が譲受法人で継続可能かどうか、事業所管行政庁に必ず事前確認し、必要な協議を終えておくようにしてください。
譲渡事業が譲受法人で継続可能でない場合の事業譲渡は実施できません。
特に、社会福祉事業は第 1 種・第 2 種社会福祉事業に区分され、このうち第 1 種社会福祉事業については、原則として行政及び社会福祉法人しか経営主体となれません。
<第 1 種社会福祉事業>
・救護施設 ・更生施設 ・その他の生計困難者を無料又は低額な料金で入所させて生活の
扶助を行うことを目的とする施設 ・生計困難者に対する助葬事業
・乳児院 ・母子生活支援施設 ・児童養護施設 ・障害児入所施設
・児童心理治療施設 ・児童自立支援施設
・養護老人ホーム ・特別養護老人ホーム ・軽費老人ホーム
・障害者支援施設 ・婦人保護施設 ・授産施設 ・生活福祉資金貸付事業
事業の譲渡においては、利用者へのサービス提供が継続されることが何よりも重要です。このため、譲渡法人では相手方法人を様々な視点から調査分析し、譲受先法人を選定することが重要です。こうした過程は、所轄庁及び事業所管行政庁から説明を求められた場合には説明責任がありますので、よく整理しておくとよいでしょう。
調査・検討の準備を行う場合に実施事項と考えられるものは以下のとおりです。
(1) 事業譲渡方針の相互確認及び秘密保持契約(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等を行う法人間で相互方針を確認します。検討を進めるにあたり、秘密保持契約を締結し、初期資料の共有を行います。
(2) 事前協議の実施(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等を行う法人間で事前協議を十分に行い、事業譲渡等の目的や方針を確認します。
(3) 基本合意書の締結(譲渡側、譲受側)
事前調査を円滑に行うために基本合意書を締結することが望まれます。詳細な調査などが、基本合意後に行われることが一般的です。
(4) 委員会などの設置(譲渡側、譲受側) 事業譲渡等の実施に向けた調査や協議を進めるための組織を設置し、担当者を選任します。
- 実施内容
(1) 事業譲渡方針の相互確認及び秘密保持契約(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等の目的や方針を互いの法人で齟齬がないように、事業譲渡等を行う法人間で相互方針を確認します。検討を進めるにあたり、一般的には、秘密保持契約を締結し、初期資料の共有を行い、事業譲渡等について検討を進めることとなります。
(2) 事前協議の実施(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等の目的や経緯、事業譲渡等後の理念、譲渡譲受する事業の現状や事業譲渡等の条件、譲渡譲受後の施設の運営方針、職員処遇のあり方など、事業譲渡等の大前提となる事項について、事前に十分協議しておきます。
(3) 基本合意書の締結(譲渡側、譲受側)
円滑に協議を進めるためには、基本合意書を締結し、譲渡法人が調査に協力できるように基本事項の合意をしておくことが望まれます。事業についての詳細な調査・分析は、基本合意後に行われることが一般的です。
(4) 委員会などの設置(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等は、合併のように消滅する法人の権利義務の一切が包括的に存続法人に当然に引き継がれるものではなく、契約に基づき、合意された範囲内で権利義務が移転します。
このため、契約によって引き継ぐ資産や負債の内容を自由に決めることができますが、一方で、移転する範囲を決めるため個々に交渉する煩雑さが生じます。相互の法人で検討委員会などプロジェクトチーム及び担当者を選定した上で、各種調査や検討、協議を行っていくことが望まれます。
2.事前調査
【1】実施事項
事前調査を行う場合に実施事項と考えられるものは以下のとおりです。
- 事前調査の実施(主に譲受側)
- 譲受可否および譲受条件の検討(譲受側)
譲受法人は譲渡事業の現状を調査し、譲受の可否や譲受の条件を検討します。
【2】実施内容
(1) 事前調査の実施(主に譲受側)
譲受法人は、事業譲渡等の可否を判断するために、譲渡事業の財務内容や運営形態などに大きな問題がないか適切に調査を実施します。
調査を円滑に進めるためには、譲渡法人から必要な協力を得ること、プロジェクトメンバーの要員を十分確保すること、外部の専門家(弁護士や公認会計士等)を活用することなどがポイントとなるでしょう。
ケースによって相違がありますが、主な調査項目は以下のとおりです。
◇財務状況の確認
譲受事業に関する計算書類を入手し、財務的な問題点や課題がないかを確認します。また、譲渡対象事業の基本財産に譲渡法人における他事業の抵当権が設定されていないか、あるいは簿外債務がないかも併せて確認する必要があります。必要に応じて外部の専門家(弁護士またはや公認会計士等)へ調査を依頼します。
◇人件費関連の確認
譲渡事業に関する職員を受入れる場合、事前に移籍対象者と譲受法人の職員の給与バランスや人件費増加に対する費用対効果などを確認する必要があります。そのため、事業譲渡等の事前調査の段階で人件費に関わるシミュレーションを実施し、問題点や課題の確認を行うことが重要です。
◇運営形態の確認
事業譲受後の運営について具体的な方向性や、それによって享受されるメリット・デメリットを事前に検討しておくことが重要です。
場合によっては運営形態の変更も含めて検討します。その際、第1種社会福祉事業については、設置義務及び許認可権を持つ都道府県などの行政の意向や要望を充分に踏まえることが必要となります。
また、事業譲渡等を行う一方で事業の一部を廃止するような場合は、介護保険事業など都道府県(市町村)事業計画に影響も生じるため、事前に関係行政機関とよく相談することが必要です。
◇収支シミュレーション
事業譲渡等後の収支シミュレーションを実施し、将来的に財務面で影響を及ぼす内容について調査を行います。特に運営形態を変更する場合や報酬の改定が予定されている場合など、事業譲渡等の前後で収支に大きな変化がある場合は、それらの要素を織り込んだ上で収支シミュレーションを行います。
(2) 譲受け可否および譲受け条件の検討(譲受側)
調査結果を踏まえ、譲受け可否の検討を行います。また、譲受ける場合は、譲渡後の事業が円滑かつ効率的に運営するための各種要素(許認可の追加等)について整理を行います。その内容をもとに譲渡法人に対して事業を譲受ける際の条件を提示します。
【3】注意点・留意すべきポイント
(1)所轄庁等への事前相談・協議
事業譲渡等は、基本財産の処分を伴うこともあり、所轄庁の承認や国庫補助事業により取得した財産の処分にかかる承認、さらには、独立行政法人福祉医療機構又は民間金融機関の借入債務にかかる各種手続(抵当権の設定等)などクリアすべきものも多いと考えられます。
このため、所轄庁等への事前の相談・協議を並行して進めていくことが重要です。
(2)事業譲渡等の支払対価の決定プロセスの留意点
譲受法人側にて、事業譲渡等の支払対価を検討するためには、事業の適切な評価が必要となります。事業を評価するにあたって、様々な視点からの調査・分析※を行います。
・財務調査・分析
・法務調査・分析
・その他(人事、IT 等)
特に「財務調査・分析」は、譲受ける資産・負債の価値が適切かどうかを検証し、財務リスクを明確にするものであり、支払対価の決定にあたって重要な意義を持ちます。
<主な検証ポイント>
・会計方針の把握、検証
・帳簿査閲による異常な取引の内容確認
・経営成績、財政状態、主要な経営指標の経年比較分析
・予算・実績差異の分析
・銀行残高証明書の入手、照合
・固定資産の実在性確認
・引当金の計上有無、妥当性の検討
・損害賠償請求の有無確認
・役員報酬、給与水準の検討
また、上記に加えて、外部環境分析(市場の状況や競合する他法人の状況)を実施することで、将来的な財務リスクを支払対価の決定に反映することも可能です。おな、調査・分析にあたっては、弁護士や公認会計士等の専門家を活用することが有効となる場合があります。(※調査・分析のことをデューデリジェンスと呼ぶことがあります)
支払対価の検討は、社会福祉法人の公的財産が毀損することのないよう、慎重に行う必要があります。こうした過程は、所轄庁等から説明を求められた場合には説明責任がありますので、よく整理しておくとよいでしょう。
【4】事例における取組み・工夫点
調査事例(以下、法人 A のケース。)では、譲受側の法人が事前調査を入念に行い、譲受ける事業の運営が行政から認められたため、円滑に協議が進みました。さらに、事業の改善が見込まれたことも譲受を承諾するポイントとなりました。
(調査事例:法人 A のケース)
・人件費関連の確認
両法人の給与水準に差がなく、想定以上の人件費負担は見込まれなかった
・運営形態の確認
譲受事業を、譲受法人の持つ既存事業と一体で運営することにより、人材不足を解消し人員を追加することなく運営改善が可能となり、収支改善計画が立てられた
・収支シミュレーション
事業を改善することができたため、収支に問題がないことを確認できた
3 . 事業譲渡等の契約
【1】実施事項
事業譲渡等の合意形成を行う場合に実施事項と考えられるものは以下のとおりです。
(1) 事業譲渡等契約の作成・締結(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等の条件や内容が確定的になれば、事業譲渡契約書を作成し、契約締結します。
【2】実施内容
(1) 事業譲渡等契約の作成・締結(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等の条件や内容が確定的になり、行政との調整に目処がついた段階で、事業譲渡契約書を作成します。事業譲渡契約書は、法律上必ず作成しなければならないものではありません。しかし、事業譲渡等の重大性や、後日の紛争を防ぐために作成することが望まれます。
事業譲渡契約は、基本財産の処分、予算外の新たな義務負担等が発生することがあるため、事業譲渡契約を締結する際には、重要な業務執行の決定に該当する場合には理事会で、事業譲渡契約等の承認を決議しておくことが望まれます。
【3】注意点・留意すべきポイント
(1)理事会及び評議員会での決議
互いの法人の理事会で重要な財産の処分・譲受けに関する決議を得るとともに、基本財産の取得(処分)・定款変更について評議員会における決議を得なければなりません。
なお、これらの決議は議事録として記録を残すことが必要です。
4.事業にかかる各種申請
【1】実施事項
事業にかかる各種申請における実施事項は以下のとおりです。
- 基本財産処分の申請(譲渡側)
譲渡法人は、譲渡事業の基本財産について、財産処分の申請を所轄庁に行います。
(2) 補助金にかかる財産処分の申請(譲渡側)
譲渡事業に対して国および都道府県から補助金交付を受けている場合、譲渡法人は財産処分の申請を行います。
(3) 施設の廃止申請および設置の申請(譲渡側、譲受側)
譲渡法人は、譲渡事業について施設の廃止申請を行い、譲受法人は、譲受けた事業について施設の設置申請を行います。
(4) 付随機能の申請(譲渡側、譲受側)
その他譲渡事業に付随する機能(付属診療所、付属保育園など)について申請が必要な場合は、それらについて担当窓口へ必要な申請を行います。
【2】実施内容
(1) 基本財産処分の申請(譲渡側)
譲渡法人が財産処分を行う際、基本財産の処分について評議員会の決議をした後に、所轄庁の承認を得る必要があります。
承認に必要な主な書類は以下のとおりです。
・財産処分承認申請書
・評議員会の議事録
・財産目録
・処分物件が不動産の場合は、その価格評価書
・対象施設の図面(面積の明記、国庫補助及びその他の別)
※社会福祉法人定款例第 29 条(基本財産の処分)
第29条 基本財産を処分し、又は担保に供しようとするときは、理事会及び評議員会の承認を得て、〔所轄庁〕の承認を得なければならない。ただし、次の各号に掲げる場合には、〔所轄庁〕の承認は必要としない。
一 独立行政法人福祉医療機構に対して基本財産を担保に供する場合
二 独立行政法人福祉医療機構と協調融資(独立行政法人福祉医療機構の福祉貸付が行う施設整備のための資金に対する融資と併せて行う同一の財産を担保とする当該施設整備のための資金に対する融資をいう。以下同じ。)に関する契約を結んだ民間金融機関に対して基本財産を担保に供する場合(協調融資に係る担保に限る。)
※社会福祉法第 45 条の 36(定款変更)
第45条の36 定款の変更は、評議員会の決議によらなければならない。
2 定款の変更(厚生労働省令で定める事項に係るものを除く。)は、所轄庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。
3・4 (略)
※社会福祉法施行規則第3条(定款変更認可申請手続)
第3条 社会福祉法人は、法第 45 条の 36 第2項の規定により定款の変更の認可を受けようとするときは、定款変更の条項及び理由を記載した申請書に次ぎに掲げる書類を添付して所轄庁に提出しなければならない。
一 定款に定める手続を経たことを証明する書類
二 変更後の定款
2 (略)
3 第1項の定款の変更が、当該社会福祉法人が従来経営していた事業を廃止する場合に係るものであるときは、同項各号のほか、廃止する事業の用に供している財産の処分方法を記載した書類を添付して所轄庁に申請しなければならない。
4 第2条第3項及び第5項の規定は、第1項の場合に準用する。
※社会福祉法施行規則第3条第4項によって準用される第2条第3項(定款変更認可申請手続)
第2条
3 所轄庁は、第3条第1項から第3項に規定するもののほか、不動産の価格評価表その他必要な書類の提出を求めることができる。
(2) 補助金にかかる財産処分の申請(譲渡側)
◇財産処分の承認申請
国庫補助により取得した財産を処分する場合は、財産処分の簡素化措置が認められるものを除き、定款に定められた所定の手続きを経て、当該処分についての承認申請を作成し、補助金申請の行政窓口へ提出しなければなりません。
添付書類の様式を所轄庁で用意している場合がありますので、担当窓口へ照会しつつ書類作成を進めてください。また、事業譲渡の趣旨、目的、背景など所轄庁の窓口に説明し、適宜相談し、円滑な申請が行えるようにすることが必要です。
承認に必要な主な書類は以下のとおりです。
・財産処分承認申請書
・財産処分の概要
・既存施設の図面(国庫負担(補助)対象部分、面積を明記したもの)
・既存施設の写真
・老朽度調書又は現存率評価調書
・評価調書(いわゆる定率法又は定額法により算定された調書)
・国庫負担(補助)金交付決定通知書及び確定通知書の写し(ない場合は交付額を確認できる都道府県、市町村等の決算書でも可)
・総事業費を確認できる決算書等
・その他参考となる資料
◇国庫補助事業により取得した財産処分報告書の提出
社会福祉施設等施設整備費及び設備整備費の交付を受けて整備された社会福祉施設等を無償により他の社会福祉法人に譲渡し、引き続き同一事業を継続して実施しようとする場合、譲渡しようとする法人は補助金申請の窓口となる都道府県に対し、財産処分報告書を作成し提出する必要があります。
この報告は財産処分の前に行う必要があり、報告事項の記載不備など必要な要件が具備されていない場合認められないこともあるので、補助金申請の窓口となる都道府県へ相談の上、手続きを行う必要があります。
報告に必要な主な書類は、以下のとおりです。
・財産処分報告書(処分内容、経過及び処分内容等を記載)
・対象施設の図面(国庫対象部分、面積を明記)
・対象施設の写真
・国庫負担(補助)金交付決定通知書及び確定通知書の写し(交付額を確認できる都道府県、市町村等の決算書でも可)
・その他参考資料
なお、間接補助事業については、都道府県が当面の国庫補助事業完了時から起算して厚生労働省が別に定める期間を経過するまで、財産処分の制限の条件が付されることがあることに注意が必要です。
財産処分報告書により報告があったものについては、厚生労働大臣の承認があったものとして取扱い、財産処分報告書は、当該都道府県の区域を所管する地方厚生局に提出します。
報告を行った場合には、当該財産処分に係る補助金相当額の国庫納付は不要です。
※祉施設等施設整備費及び社会福祉施設等設備整備負担(補助)金に係る財産処分承認社会福手続の簡素化について(平成 12 年 3 月 13 日社援第 530 号3局 1 部局長通知)
(3) 施設の廃止申請および設置の申請
譲渡事業を途切れさせずに継続して運営するためには、廃止の認可等と設置の認可等に間をおかないよう、申請先と前広に相談しつつ、スケジュールの調整を図ることが必要です。
申請に必要な事項や申請先は種別や業務内容によって相違がありますので、所轄庁および事業所管行政庁の担当窓口に相談するようにして下さい。
◇譲渡法人の場合
事業譲渡等により運営法人が変更となるため、譲渡法人において施設の廃止申請を行います。
◇譲受法人の場合
上記と同時期に、譲受法人では施設の設置申請を行います。
※社会福祉法第 64 条(廃止)
第64条 第 62 条第1項の規定による届出をし、又は同条第2項の規定による許可を受けて、社会福祉事業を経営する者は、その事業を廃止しようとするときは、廃止の日の1月前までに、その旨を当該都道府県知事に届け出なければならない。
※社会福祉法第 62 条(施設の設置)
第62条 市町村又は社会福祉法人は、施設を設置して、第一種社会福祉事業を経営しようとするときは、その事業の開始前に、その施設(以下「社会福祉施設」という。)を設置しようとする地の都道府県知事に、次に掲げる事項を届け出なければならない。
一 施設の名称及び種類
二 設置者の氏名又は名称、住所、経歴及び資産状況
三 条例、定款その他の基本約款
四 建物その他の設備の規模及び構造
五 事業開始の予定年月日
六 施設の管理者及び実務を担当する幹部職員の氏名及び経歴
七 福祉サービスを必要とする者に対する処遇の方法
2~6 (略)
(4)付随機能の申請
その他譲渡事業に付随する機能について申請が必要な場合は、譲渡事業本体と同様に各種申請を遅滞なく実施します。
例:譲渡法人内に設置された施設内保育園の運営について、施設の譲渡とともに譲受法人で活用する場合の保育所の廃止および設置申請
【3】注意点・留意すべきポイント
事業譲渡等は、基本財産の処分を伴うこともあり、所轄庁の承認や国庫補助事業により取得した財産の処分にかかる承認、さらには、独立行政法人福祉医療機構又は民間金融機関の借入債務にかかる各種手続(抵当権の設定等)などクリアすべきものも多いと考えられます。このため、所轄庁等への事前の相談・協議を並行して進めていくことが重要です。
また、事業譲渡等は、譲渡元である法人における終了手続と、譲渡先における開始手続をス
ムーズに実施することが求められます。所轄庁には、法人担当となる窓口と、施設認可等にかかる窓口があるため、同時に相談を進めていくことが必要となります。
(1)国庫補助金の取り扱い
社会福祉法人が国庫補助金を受けて取得した財産を処分する際には、厚生労働大臣等の承認が必要となります。
※厚生労働省所管一般会計補助金等に係る財産処分承認基準における財産処分の種類
・転 用 :補助対象財産の所有者の変更を伴わない目的外使用
・譲 渡 :補助対象財産の所有者の変更
・交 換 :補助対象財産と他人の所有財産との交換
・貸 付 :補助対象財産の所有者の変更を伴わない使用者の変更
・取壊し:使用を止め、取り壊すこと
・廃 棄 :使用を止め、廃棄処分すること
承認にあたっては、交付した国庫補助金に相当する額の返還(国庫納付)や、返還を求めない場合であっても処分を制限するなどの条件を付すこととなっています。
【4】事例における取組み・工夫点
調査事例では、「児童福祉法に基づく障害児施設」を譲受け、医療施設で事業を継続することとしました。主な申請は以下のとおりです。
◇譲受事業(施設)の廃止および申請
・児童福祉施設廃止申請および設置申請
・指定申請(障害児施設、短期入所障害福祉サービス、生活介護障害福祉サービス)
・障害者施設等入院基本料の受理に関する届出
・特殊疾患入院施設管理加算の受理に関する届出
◇補助金における財産処分申請
・財産処分申請
5 .定款の変更
【1】実施事項
定款の変更における実施事項は以下のとおりです。
(1) 定款変更の決議(譲渡側、譲受側)
・譲渡法人では、譲渡事業について、「事業の廃止および基本財産の処分」を評議員会で決議します。
・譲受法人では、譲受ける事業について、「事業および基本財産の追加」を評議員会で決議します。
(2) 定款変更申請(譲渡側、譲受側)
所轄庁へ定款変更を申請します。
【2】実施内容
(1) 定款変更の決議(譲渡側、譲受側)
◇譲渡法人の場合
事業を譲渡す法人は、譲渡事業に関して事業の廃止および基本財産の処分など定款変更に必要な事項について評議員会で決議します。決議内容については議事録に記録を残すようにします。
◇譲受法人の場合
事業を譲受ける法人は、譲受事業に関して事業および基本財産の追加など定款変更に必要な事項について評議員会で決議します。決議内容については議事録に記録を残すようにします。
なお、譲渡法人において「事業および基本財産の処分」の定款変更の決議が済んでいなければ、譲受法人の「事業および基本財産の追加」の定款変更の申請ができません。スケジュールに留意する必要があります。
(2) 定款変更申請(譲渡側、譲受側)
譲渡法人、譲受法人ともに定款変更を所轄庁へ申請します。
申請に必要な書類は以下のとおりですが、譲渡事業の内容や定款変更の内容によって添付する書類に違いがありますので、事前に所轄庁へ照会・相談するようにして下さい。
・社会福祉法人定款変更認可申請書
・理事会議事録
・評議員会議事録
・現行の定款
・変更後の定款
・事業計画書
・収支予算書(2か年)
・事業譲渡契約書
・施設長就任書・履歴書
※社会福祉法第 45 条の 36(定款の変更)
第45条の36 定款の変更は、評議員会の決議によらなければならない。
2 定款の変更(厚生労働省令で定める事項に係るものを除く。)は、所轄庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。
3 第 32 条の規定は、前項の認可について準用する。
4 社会福祉法人は、第 2 項の厚生労働省令で定める事項に係る定款の変更をしたときは、遅滞なくその旨を所轄庁に届け出なければならない。
※社会福祉法施行規則第 3 条(定款変更認可申請手続)
第 3 条 社会福祉法人は、法第 45 条の 36 第 2 項の規定により定款の変更の認可を受けようとするときは、定款変更の条項及び理由を記載した申請書に次に掲げる書類を添付して所轄庁に提出しなければならない。
一 定款に定める手続を経たことを証明する書類
二 変更後の定款
2 前項の定款の変更が、当該社会福祉法人が新たに事業を経営する場合に係るものであるときは、同項各号のほか、次に掲げる書類を添付して所轄庁に申請しなければならない。
一 当該事業の用に供する財産及びその価格を記載した書類並びにその権利の所属を明らかにすることができる書類
二 当該事業を行うため前号の書類に記載された不動産以外の不動産の使用を予定しているときは、その使用の権限の所属を明らかにすることができる書類
三 当該事業について、その開始の日の属する会計年度及び次の会計年度における事業計画書及びこれに伴う収支予算書
3 第 1 項の定款の変更が、当該社会福祉法人が従来経営していた事業を廃止する場合に係るものであるときは、同項各号のほか、廃止する事業の用に供している財産の処分方法を記載した書類を添付して所轄庁に申請しなければならない。
4 第 2 条第 3 項及び第 5 項の規定は、第 1 項の場合に準用する。
【3】注意点・留意すべきポイント
定款変更の認可を受けるまで一定の時間を要することがありますので、ゆとりを持ったスケジュールを立てることが大切です。
6. 会計・税務処理
【1】実施事項
会計・税務処理における実施事項は以下のとおりです。
(1)会計処理(譲受側)
譲受資産・負債の結合時の公正な評価額に基づき、資産・負債の受入処理を行います。支払対価が対象事業の公正な評価額(純額)を上回る場合には、会計上の借方差額が生じることになります。当該ケースにおいては、支払対価は、対象事業の不動産の時価と移転す
る他の資産及び負債をもとに事業計画(将来の損益予測や設備投資)を加味して、合理的な価格に決定されている必要があります。また、逆に支払対価が対象事業の公正な評価額(純額)を下回る場合には、会計上の貸方差額が生じることになり損益として処理します。
(2)会計処理(譲渡側)
資産・負債の譲渡に準じた会計処理を行います。なお、受取対価が対象事業の公正な評価額(純額)を下回る場合には、会計上の借方差額が生じることになります。その逆に受取対価が対象事業の公正な評価額(純額)を上回る場合には、会計上の貸方差額が生じることとなり損益として処理します。
(3)社会福祉充実計画及び社会福祉充実
残額(譲渡側、譲受側)事業譲渡等による社会福祉充実計画の変更及び事業譲渡等後の社会福祉充実残額を確認します。
(4)税務処理(譲受側)
事業譲渡等による税務処理が発生する場合は、税務処理を行います。
(5)税務処理(譲渡側) 事業譲渡等による税務処理が発生する場合は、税務処理を行います。
※公正な評価額とは、いわゆる時価のことです。
【2】実施内容
(1)会計処理(譲受側)
1 資産・負債の評価
譲受資産及び負債について、結合時の公正な評価額を付します。
(なお、事業譲渡等は、ある法人が、他の法人を構成する事業の支配を獲得することと考えられます。したがって、会計上、事業譲渡等の経済的実態は原則として「取得」と解釈されます。)
2 時価と支払対価の差額の処理
譲受資産・負債の公正な評価額と支払対価の間に差額が生じる場合があります。(差額についての会計処理の表示科目等の詳細については現在検討が行われています。)
3 その他論点:国庫補助金等特別積立金の引継ぎ
無償譲渡において、譲受事業に施設整備の補助金をうけた資産があり、補助金を返還せずに引き継ぐ場合、国庫補助金等特別積立金の帳簿価額をそのまま引継ぎます。
(2)会計処理(譲渡側)
譲渡事業の資産と負債の純額と受取対価の差額については、損益として処理します。
損益についての会計処理の表示科目等の詳細については現在検討が行われています。
(3)社会福祉充実計画(譲渡側、譲受側)
◇社会福祉充実計画について
既存の社会福祉充実計画がある場合は、事業譲渡等による事業環境の変化に伴い、社会福祉充実計画を変更する必要があるか検討します。検討の結果、社会福祉充実計画の変更が必要であると判断した場合は、所轄庁の承認又は届出が必要となります。
<所轄庁の承認または届出が必要な変更事由>
*2017 年(平成 29 年)1 月 24 日発出通知 「社会福祉法第55条の2の規定に基づく社会福祉充実計画の承認等について」
※社会福祉法第 55 条の 3(社会福祉充実計画の変更)
第 55 条の3 前条第1項の承認を受けた社会福祉法人は、承認社会福祉充実計画の変更をしようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、所轄庁の承認を受けなければならない。ただし、厚生労働省令で定める軽微な変更については、この限りでない。
2 前条第1項の承認を受けた社会福祉法人は、前項ただし書の厚生労働省令で定める軽微な変更をしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を所轄庁に届け出なければならない。
3 前条第3項から第 10 項までの規定は、第1項の変更の申請について準用する。
※社会福祉法施行規則第 6 条の 18(承認社会福祉充実計画の変更の承認の申請)
第6条の18 法第 55 条の3第1項に規定する承認社会福祉充実計画の変更の承認の申請は、申請書に、次の各号に掲げる書類を添付して所轄庁に提出することによって行うものとする。
一 変更後の承認社会福祉充実計画を記載した書類
二 第6条の 13 第2号から第4号までに掲げる書類
(4)税務処理(譲受側)
事業および法人形態によって、課税範囲は異なりますので、税務署等への確認を行いながら処理を進める必要があります。
事業譲渡等において、一般的には譲受側では以下の課税が生じる可能性があります。
・不動産取得税
・登録免許税
・法人税
(5)税務処理(譲渡側)
事業譲渡等において、譲渡側では以下の課税が生じる可能性があります。
・消費税
・法人税
・所得税
※<租税特別措置法第 40 条の規定の適用>
なお、事業譲渡する資産が租税特別措置法第 40 条の規定の適用を受けた寄附財産である場合、有償又は無償に関わらず、譲渡により原則として非課税承認が取り消され、譲渡した法人において納税が必要となりますので、譲渡法人が所轄の税務署において事前相談を行う必要があります。
法人における事業内容等によって、課税範囲は異なりますので、税務署等への確認を行いながら処理を進める必要があります。また、事業譲渡等により事業規模が変化することで、消費税等の課税義務の有無に変更が生じる可能性があることにも留意が必要です。
※租税特別措置法第 40 条(国等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税)
第 40 条 1~5 (略)
6 第1項後段の規定の適用を受けて行われた贈与又は遺贈(以下この条において「特定贈与等」という。)を受けた公益法人等が、合併により当該公益法人等に係る第3項に規定する財産等を合併後存続する法人又は合併により設立する法人(公益法人等に該当するものに限る。以下この項において「公益合併法人」という。)に移転しようとする場合において、当該合併の日の前日までに、政令で定めるところにより、当該合併の日その他の財務省令で定める事項を記載した書類を、納税地の所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出したときは、当該合併の日以後は、当該公益合併法人は当該特定贈与等に係る公益法人等と、当該公益合併法人がその移転を受けた資産は当該特定贈与等に係る財産と、それぞれみなして、この条の規定を適用する。
7~20 (略)
※租税特別措置法施行規則 第 18 条の 19 第 13 項
13 法第 40 条第6項に規定する財務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一 法第 40 条第6項に規定する特定贈与等(以下この条において「特定贈与等」という。)を受けた公益法人等の名称、主たる事務所の所在地及び法人番号並びに合併予定年月日
二 当該公益法人等が法第 40 条第6項に規定する公益合併法人に移転をしようとする同項に規定する財産等の種類、所在地及び数量
三 当該公益合併法人の名称、主たる事務所の所在地及び法人番号(法人番号を有しない法人にあっては、名称及び主たる事務所の所在地)並びに当該公益合併法人が当該移転を受ける資産の使用開始予定年月日(法第 40 条第 13 項において準用する同条第五項後段に規定する政令で定める事情がある場合には、その事情の詳細を含む。)及び使用目的
四 第2号に規定する財産等(当該財産等が、当該公益法人等が当該特定贈与等を受けた財産以外のものである場合には、当該財産)を当該公益法人等に当該特定贈与等をした者の氏名及び住所又は居所並びに当該特定贈与等に係る贈与又は遺贈をした年月日及び承認年月日並びに当該財産の種類、所在地及び数量
五 その他参考となるべき事項
7. 資産・負債等の移管
【1】実施事項
資産移管における実施事項は以下のとおりです。
(1) 基本財産の譲渡(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等の対象となる財産において、基本財産の所有権移転を目的とした契約を締結します。
(2) その他財産の譲渡(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等の対象となる財産において、基本財産以外の譲渡について、各資産の現状および現品の有無を確認し、移転の要否を定めた上で、契約を取り交わします。
(3) 負債の譲渡(譲渡側、譲受側)
譲渡事業に負債がある場合は、債権者に対して債務引受の手続きを行います。
(4) 不動産の登記移転(譲受側)
登記変更が必要な資産については、法務局へ登記の変更手続きを行います。
【2】実施内容
(1) 基本財産の譲渡(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等は、特定の事業を継続していくため、当該事業に関する組織的な財産を他の法人に譲渡・譲受することであり、土地、建物などの単なる物質的な財産だけでなく、事業に必要な有形的・無形的な財産のすべてを他の法人に譲渡・譲受することであり、利用者との契約や雇用契約の承継、債務の移転を含みます。
このため、各社会福祉法人間の合意を確認するため、書面をもって事業譲渡等にかかる契約を行うことが一般的です。事業譲渡等の合意形成でも触れていますが、法律上必ず作成しなければならないものではありませんが、後々のトラブル防止にもなるため、事業譲渡等に関する契約を締結することが望まれます。
(2) その他財産の譲渡(譲渡側、譲受側)
その他財産の資産(基本財産、公益事業用財産及び収益事業用財産以外の財産)の処分等に特別の制限はありませんが、社会福祉事業の存続要件となるものはみだりに処分しないこととされていることから、各資産の現状及び現品の有無などを確認の上、譲渡対象についても事業譲渡契約において十分に考慮することが望まれます。
(3) 負債の譲渡(譲渡側、譲受側)
債務引受とは、譲渡法人から譲受法人に債務を移転すること(免責的債務の引受*の場合)になります。したがって、債権者からの承認を得る必要があります。
例として、独立行政法人福祉医療機構からの借入金がある場合の提出資料をまとめました。ただし、ケースによって違いがありますので、担当窓口に照会・相談するようにして下さい。
・債務引受申込書
・譲渡法人における施設廃止申請書(写)及び認可証(写)
/譲受法人における施設設置認可申請書(写)及び認可証(写)
・債務引受申込者と現債務者との譲渡契約書(写)
・譲渡法人及び譲受法人それぞれの定款/法人登記簿謄本/決算書(財産目録含む)
・譲渡法人及び譲受法人それぞれの事業譲渡等を行うことを協議した理事会議事録
・債務引受後の譲受法人の財産目録、収支予算書
・債務引受後担保物件の登記簿謄本(写)
(*)免責的債務の引受
債務が同一性を保ちつつ新債務者(譲受法人)に移転し、元の債務者(譲渡法人)が債権債務関係から離脱する債務引受のこと。
(4) 不動産の登記移転(譲受側)
土地、建物の不動産の所有者の登記名義人は、譲渡法人となっていることから、譲渡契約により所有権が移転した段階で、法務局へ所有権の移転の登記の申請を行う必要があります。
債務とともに不動産(抵当権が設定されている場合等)を譲受けた場合は、債務引受手続と併せて当該抵当権の債務者の変更の登記の申請も必要になります。
(5)抵当権の解除
譲渡資産の中に、譲受ける事業とは別の借入金に対する抵当権が設定されている場合があります。
その取扱については、相互の法人で協議することになりますが、通常は譲渡法人にて当該抵当権を解除し、法務局へ抵当権の抹消の登記の申請を行う必要があります。
【3】事例における取組み・工夫点
・調査事例では、事業譲渡契約の代わりに、基本財産については財産無償譲渡契約を締結し、その他資産については財産無償譲渡契約に付帯する形で書面を取り交わしました。
・流動資産については、移転の要否を明確に線引することが困難なものがあり、特に現預金の移管金額については幾度も協議を重ねることになりました。移管資産の協議については、十分な協議時間の確保が必要と考えられます。
・流動負債は一切引き受けず、固定負債は譲渡事業における長期設備投資金借入金および退職給与引当金のみ引き受けたため、債務引受手続きは独立行政法人福祉医療機構、その他金融機関1行となり効率的に進められていました。
8. 人事・労務関連
【1】実施事項
人事・労務関連における実施事項は以下のとおりです。
(1) 職員の引継ぎ(譲渡側、譲受側) 譲受法人は転籍対象職員の雇用条件などを検討し、 譲渡法人と基本合意を行います。
(事業譲渡等に伴う転籍においては、既存の労働条件を維持したまま移籍するのが原則となります)
(2) 雇用条件の検討(譲受側)
(3) 職員説明会の実施(譲渡側)
法人間の基本合意を受け、転籍対象職員向けに説明会を実施し、転籍の承諾を得るようにします。
(4)雇用契約の締結(譲受側)
転籍に承諾した職員と雇用契約を締結します。
【2】実施内容
(1) 職員の引継ぎ(譲渡側、譲受側)
事業譲渡等の場合、合併の場合と異なって、職員が譲受法人に当然に引き継がれるわけではありません。そのため、対象事業における職員の引継ぎを行うためには、譲受法人へ転籍することを職員から承諾を得る必要があります。事業譲渡等に伴う転籍においては、既存の労働条件を維持したまま移籍するのが原則となります。
(2) 雇用条件の検討(譲受側)
事業譲渡等においては、既存の労働条件を維持したまま移籍するのが原則となるため、労働条件を変更する場合には、転籍承諾とは別に、労働条件変更の同意をとる必要があります。このような場合においても、各種手当を含めた賃金等が大きく変動しないよう調整が必要になります。また、転籍後の職位を従前の職位と比べて著しく下げたり、安易に人員を減らしたりしないよう配慮することが必要です。雇用条件については譲渡法人と基本合意を行うようにします。
(3) 職員説明会の実施(譲渡側)
転籍対象職員へ転籍後の処遇について説明会を実施します。既存の労働条件を維持したまま移籍するのが原則となります。ただし、対象職員が転籍に承諾しない場合は、当該職員を引き継ぐことはできません。このため不安や不満を払拭するよう意識調査を行ったり、相談会を設けたりするなど、細やかに対応することが望まれます。
なお、労働組合が組織されており、労働条件が変更される場合は、労使合意の手続きが必要です。合意書を労使間で取り交わします。
(4) 雇用契約の締結(譲受側)
転籍に承諾した職員と雇用契約を個別に締結します。転籍承諾書があれば、雇用契約書を別途締結する必要はありませんが、監査等において雇用契約書が必要とされることがあるため、個別に雇用契約書を締結しておくことが望まれます。
【3】注意点・留意すべきポイント
事業譲渡等において、譲渡法人から譲受法人へ職員を転籍させる場合、事業譲渡等においては、既存の労働条件を維持したまま移籍するのが原則となります。
労働条件を変更する際には、転籍対象者に転籍後の労働条件を記載した同意書を提示し、同意をとっておく必要があります。また、退職・雇用として取り扱う場合は、譲渡会社では退職届を受領し、譲受会社では雇用契約を締結するなどの手続きが必要になります。
※労働基準法第 89 条(作成及び届出の義務)
第 89 条 常時 10 人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を 2 組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
※事業譲渡等指針
事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(平成 28 年厚生労働省告示第 318 号)がまとめられておりますので、参照ください。
◇社会福祉施設職員等退職手当共済の手続き
事業譲渡に伴う職員の転籍に関して、独立行政法人福祉医療機構が行っている社会福祉施設職員等退職手当共済では、譲受法人が共済契約を機構と締結する者であるとき又は既に共済契約を締結している者であるときは、譲渡法人との共済契約は解除となりますが、被共済職員は、共済制度上、退職とはならず被共済職員期間の通算が認められます。共済契約の承継関係及び新規加入施設の追加等の諸手続が必要であるため、手続き漏れにより、共済契約者及び被共済職員が不利益を被ることがないよう、独立行政法人福祉医療機構によく相談してください。
【4】事例における取組み・工夫点
調査事例では以下の取組を行い、対象職員のほぼ全員を円滑に転籍することができました。
・職員について個別面談を丁寧に実施し、賛同を得るよう努めました。
・半年間出向期間を設けて譲受法人の考え方や文化に馴染んでもらってから、転籍を決めてもらうにしたため、ほとんどの職員が十分納得の上、転籍を承諾してくれました。
9.利用者や利用者家族、地域への説明
【1】実施事項
利用者や利用者家族、地域への説明を行う場合に実施事項と考えられるものは以下のとおりです。
(1)利用者や利用者家族への事業譲渡等の説明(主に譲渡側)
施設の利用者や利用者家族へ事業譲渡等の説明を行い、個別承諾を得ます。
(2)利用者との再契約の締結(譲受側)
各利用者と改めて契約締結手続が必要な場合には、契約を締結します。
(3)地域への事業譲渡等の説明(主に譲渡側)
地域へ事業譲渡等の説明を行い、理解を得ます。
【2】実施内容
(1) 利用者や利用者家族への事業譲渡等の説明(主に譲渡側)
譲渡法人・譲受法人の両者は、利用者や利用者家族に動揺を与えないよう、事業譲渡等の目的や背景、譲渡後の運営などについて、家族会などを通じて全ての利用者家族へ説明し、承諾を得るようにします。説明会で出された意見などは議事録として記録を残すようにします。
(2) 利用者との再契約の締結(譲受側)
事業譲渡等の場合は、相互の法人間で定めた範囲の財産が個別に移転するにすぎませんので、それに伴って利用者との契約が当然に引き継がれる訳ではありません。そのため、譲受ける施設の利用者や利用者家族から承諾を得るとともに、契約締結手続が必要な場合には、改めて譲受法人と個別に契約を締結する必要があります。
ちなみに、合併の場合は、消滅する法人の権利・義務の一切を存続法人が引き継ぐことになるため、消滅する法人の利用者との契約は、当然に存続法人に引き継がれ、存続法人はそれら利用者と改めて契約を締結する必要はありません。
(3) 地域への事業譲渡等の説明(主に譲渡側)
事業譲渡等の際に、必ず地域へ説明しなければならないわけではありません。施設設置の経緯や背景、地域の事情などを勘案し、必要に応じて地域の不安を解消するために、地域に対して説明会を実施することが望まれます。
説明会対象者は施設運営に関わる方たちや地域の代表者(地区会長)などが想定されますが、両法人間で協議し、対象者を選定するようにしてください。説明会では、譲渡法人・譲受法人両者で事業譲渡等の目的や背景、譲渡後の運営などを説明し、質疑応答を交えながら、理解を得るように努めます。説明会で出された意見などは念のため議事録として記録を残すようにします。
【3】注意点・留意すべきポイント
(1)利用者等への事前説明と理解の醸成
事業譲渡等の利用者については、契約主体の変更になるため、利用者や利用者家族への説明及び個別承諾を得るとともに、契約締結手続が必要な場合には、改めて譲受法人と個別に契約を締結する必要があります。
事業譲渡等によって、利用契約の再締結の手続(例:高齢者施設における入所契約及び重要事項説明書等)、サービス内容や利用料金の変更の有無等についてあらかじめ十分に説明した上で、承諾を得るようにしてください。
(2)地域住民への事前説明
事業譲渡等によって、特に地域における福祉サービスについて変更等が生じる場合には、地域住民や自治会への説明を行うことが望まれます。社会福祉法人の事業譲渡等及び今後の実施事業計画に関して理解を得ておくようにしてください。
10.規程・マニュアル類、システムなどの整備
【1】実施事項
規程・マニュアル類、システムなどの整備を行う場合に実施事項と考えられるものは以下のとおりです。
(1) 各種規程・マニュアル類の整合性の確保(譲受側)
必要に応じて、各種規程・マニュアル類の整理・統合を図ります。
(2) 委員会などの運営検討(譲受側) 必要に応じて、委員会などの運営について検討し ます。
(3) 各種システムの整合性の確保(譲受側)
必要に応じて、情報システム、経理システムなどの各種システムの統合を図ります。
(4) 名義変更(譲受側) 必要に応じて、各種名義変更を行います。
【2】実施内容
(1) 各種規程・マニュアル類の整合性の確保(譲受側)
事業を譲受けた後に、業務遂行に支障が生じないよう、譲受法人の理念に基づいた運営方針および規程、あるいは運営マニュアル類の整備を行います。
これらは事業譲渡等を推進するプロジェクトチームの中に個別テーマを検討する「○○規程検討ワーキング」などを設けて、相互の法人から実務責任者、実務担当者が参画して検討、作業を行うとよいでしょう。
(2) 委員会などの運営検討(譲受側)
譲受ける施設内で「事故防止検討委員会」など、個別テーマの検討委員会を設けている場合、譲受け後の委員会運営について、譲受法人の既存委員会と整合性を図り、必要に応じて規程類を修正します。
(3) 各種システムの整合性の確保(譲受側)
譲受ける施設で経理システムや情報システムなどITを活用したシステムが導入されていれば、譲受け後の業務運営に支障が生じないよう、譲受法人のシステムと整合性を図ります。これら作業には一定の時間を要することが想定されますので、システム会社を活用し、前広に検討・作業に着手することが必要です。
ホームページなど外部への情報発信媒体を作成している場合は、それらの変更も必要です。
(4) 名義変更(譲受側)
名義変更が必要なものを洗い出し、事業譲渡後の法人名に変更します。
(例)保険契約 委託契約 リース契約 保守契約 など
どうぞ、お気軽にお電話ください
☎0797-62-6026
中小企業M&Aガイドライン(中小企業向け手引き)のご案内
※中小M&Aガイドライン(-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-令和2年3月 中小企業庁 より抜粋)をご案内させて頂きます。ご参考になれば幸いです。
第1章 後継者不在の中小企業向けの手引き
I 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義等
1 後継者不在の中小企業にとっての本ガイドラインの意義
中小企業は、事業承継を検討するに当たり、一般的には、後継者候補を経営者の親族内から選定し、仮に親族内に不在であれば自社の役員や従業員の中から選定しようとすることが多い。しかし、親族内にも社内にも後継者候補がいない、いわゆる後継者不在の中小企業においては、社外の第三者に後継者候補を求めるほか事業承継の選択肢がなく、それが実現できなければ廃業を余儀なくされることになる。
中小 M&A は、このような後継者不在の中小企業が、社外の第三者による事業承継のために M&A の手法を用いるものであり、大企業を対象とする M&A とは異なる点がある。
例えば、中小 M&A において、特に譲り渡し側は、M&A 未経験であることがほとんどであり、M&A に関する経験・知見が乏しい傾向にある。また、中小 M&A は、対象となる事業が中小企業の経営者個人の信用・人柄その他の属人的な要素に大きく影響される傾向にある。加えて、中小 M&A においては、M&A そのものに多額のコスト(特に M&A 専門業者や士業等専門家等の手数料や報酬)を掛けられない傾向にある。
このような実情を踏まえ、本章においては、主に後継者不在の中小企業である譲り渡し側の視点から、M&A に関する一般的な説明に留まらず、中小 M&A 独自の特色についても加味した説明を行うこととする。
これによって、中小 M&A を検討する経営者の背中を押し、中小 M&A が適切な形で促進されることを目指すものとする。
2 中小 M&A の事例
中小 M&A は事案ごとに特徴があり、事業規模・業績・業態等によっても、一様に類型化することはできない。しかしながら、中小 M&A について具体的なイメージを持ちやすくするべく、以下では、各種の特徴ごとに、具体的な事例を紹介する。
なお、ここに記載する事例は、それぞれ、あくまで一例であり、網羅的なものではなく、個別の具体的な中小 M&A が、ここに記載する事例のとおりの結論になることを確約するものではないため、留意されたい。
(1) 小規模企業・個人事業主において中小 M&A が成立した事例
① 小規模企業において成立した事例
② 個人事業主において成立した事例
③ 家業的経営(家族経営)である中小企業において成立した事例
④ M&A プラットフォームを利用してマッチングが実現し、成立した事例
⑤ フランチャイズ(FC)店において成立した事例
(2) 経営状況が良好でない中小企業において中小 M&A が成立した事例
① 赤字であるにもかかわらず成立した事例
② 債務超過であるにもかかわらず成立した事例
(3) 親族内承継の頓挫から中小 M&A に移行し成立した事例
〇後継者候補が承継を拒んだため中小 M&A に移行し成立した事例
(4) 意思決定のタイミングが中小 M&A の成立内容に影響を与えた事例
〇適切なタイミングで中小 M&A を決断していれば、より好条件で譲り渡せた事例
(5) 譲り渡し側の条件の明確化が中小 M&A の成立に寄与した事例
① 譲り渡し側経営者の希望通り、従業員の雇用が引き継がれることを条件として成
立した事例
② 譲り渡し側経営者が中小 M&A の成立後にも一定期間経営に関与することを条
件として成立した事例
(6) 従業員の反対にもかかわらず成立した事例
〇中小 M&A に反対していた従業員の理解を得た上で成立した事例
(7) 廃業を予定していたものの中小 M&A が成立した事例
① 事業の一部を中小 M&A により譲渡し、廃業費用を捻出した事例
② 廃業を考えていたものの、支援機関から中小 M&A を提案されたことを機に中小M&A に挑み、成立した事例
(8) 何らかの理由により中小 M&A が成立しなかった事例
① 中小 M&A 着手が遅れたため、資金繰りが尽きてしまい、中小 M&A が不成立に終わり廃業した事例
② 社外へ情報が漏れたことに伴い、中小 M&A が不成立になった事例
③ オーナー一族間の不和、コミュニケーション不足により、中小 M&A が不成立になった事例
④ 譲り渡し側が不誠実であったため中小 M&A が成立しなかった事例
3 譲り渡し側にとっての基本姿勢
(1) 中小 M&A に関する基本的な認識の変化
大企業と異なり、多くの中小企業にとって、M&A は馴染みの薄いものであると言われることがある。その背景として、譲り渡し側・譲り受け側ともに、中小 M&A を躊躇する原因があるとされる。
例えば、譲り渡し側にとっては、M&A は「後ろめたい」、「従業員に申し訳ない」、また、譲り受け側にとっては、M&A は敵対的買収を行う「ハゲタカ」のようなイメージである等といった感覚があると言われることがあった。特に地方においては、そのような感覚が更に強まる傾向にあると言われることがあった。
しかし、そのような感覚は、必ずしも時代の趨勢に合致したものではないと思われる。中小 M&A は、譲り渡し側経営者がそれまでの努力により築き上げてきた事業の価値を、社外の第三者である譲り受け側が評価して認めることで初めて実現することであり、譲り渡し側経営者にとって後ろめたいことではなく、むしろ誇らしいことであると言える。また、譲り受け側にとって、他社が時間を掛けて築き上げてきた事業を譲り受けるということは、経営判断に基づき事業を拡大するための1つの合理的な手法であるとともに、通常は、譲り渡し側との信頼関係に基づいて実現するものであり、友好的な取引であると言える。こういった、中小 M&A に対する従来否定的なイメージが肯定的に受け入れられる感覚が、中小企業の間にも徐々に浸透してきていると言われている。
また、近年、事業引継ぎ支援センター等の公的機関の整備を含め、中小 M&A に関する支援機関は充実してきていることから、中小企業にとっても、以前より支援機関へのアクセスが容易になり、支援を受けやすくなってきていると言える。
このように、中小 M&A に関する基本的な認識や中小 M&A を取り巻く環境が近年大きく変化する中で、譲り渡し側経営者は、積極的に中小 M&A を検討することが望まれる。
(2) 従業員・取引先等への影響の緩和
事業を社外の第三者に譲り渡して存続させることにより、従業員の職場を残して雇用の受皿を守ることができる。また、取引先(仕入先・得意先等)との取引関係を継続させることができれば、地域におけるサプライチェーンの維持にも資することになる。
特に、地域の中核企業と言われる規模の企業であれば、何らの対策も行わずに廃業した場合、多くの従業員の雇用が失われ、地域のサプライチェーンにも大きな穴が生じるおそれがある。
このように、譲り渡し側経営者は、自身の従業員・取引先等への影響を緩和するという観点でも、中小 M&A には意義がある、という点を認識することが望まれる。
(3) 譲り受け側から見た、譲り渡し側の事業の魅力
譲り渡し側経営者においては、「自社の事業を譲り受けてくれるような第三者はいないだろう」と考え、そもそも、中小 M&A を検討しようとすらしないケースが多くあると言われる。しかし、譲り渡し側経営者が気付いていなかったような事業の価値を譲り受け側が高く評価し、中小 M&A の成約に至るケースもある。
例えば、譲り渡し側の収支・財務の状況、事業規模や保有不動産等は、事業の分かりやすい特徴であると言えるが、譲り受け側が評価するのはこういった要素に限られない。例えば、高い技術力や優良な取引先との人脈・商流、優秀な従業員、地域内・業界内における知名度・ブランド・信用、業歴、業界内シェア、店舗網、知的財産権(特許権等)やノウハウ、事業分野の将来性、許認可等といった無数の要素が評価の対象となり得るのである。
したがって、仮に、譲り渡し側の事業が小規模であったり、赤字や債務超過であったりしても、譲り受け側が事業の価値を認めて「ぜひ譲り受けたい」と申し出ることは大いにあり得るということを認識すべきである。このような、譲り渡し側経営者にとって自明であるが故に気付きにくい魅力を発掘するという意味でも、後述のとおりまずは早期に支援機関へ相談してみることが望まれる(なお、貸借対照表の簿価上は債務超過であっても、資産・負債を時価評価し直した結果、実態としては資産超過であることが判明するケースもある。)。
ただし、中小M&Aの譲り受け側は、譲り渡し側の数倍程度の事業規模(売上・従業員数等)の、必ずしも大規模ではない企業であるケースが相当割合あり、譲り受け側にとっても中小 M&A は一大決心であることが多い。そのため、譲り渡し側としては、譲り受け側が相応の覚悟を持って中小 M&A に臨んでいるということを意識して、真摯に対応することが必要である。
4 譲り渡し側にとっての留意点
(1) 早期判断の重要性
中小 M&A をより早期に検討し実現することにより、従業員の雇用を確保し地域のサプライチェーンを維持することが可能となり、譲り渡し側経営者自身にとっても手元に残る代金(譲渡対価)の金額が多くなるケースもある。また、事業全体としては継続できなくとも、例えば利益計上できている優良店舗の一部事業のみを早期に譲り渡すこと等で事業の一部を継続させることができるケースもある。
個別のケースにより異なるが、通常、希望する譲り受け側とのマッチングには、数か月~1年程度の時間を要することが見込まれることから、早期に判断して動き出すことが重要である。
特に、中小 M&A についての判断は、日頃の繁忙等に追われることで後ろ倒しになりがちであるが、決断が遅れれば遅れるほど中小 M&A の選択肢は狭まる傾向にある。特に業績が良くない場合には、資金繰りが尽きてしまい身動きを取れなくなるケースも見られるので早期の判断が求められる。実際、判断が遅れた結果、廃業費用すら捻出できない状況に陥るケースもあるので、家族、従業員や取引先等に迷惑を掛けないためにも、経営者は、早期に判断し、対応を見極めることが重要である。
(2) 秘密保持の徹底
中小 M&A に関する手続の全般にわたり、秘密を厳守し情報の漏えいを防ぐことは極めて重要である。外部はもちろん、親戚や友人、社内の役員・従業員に対しても、知らせる時期や内容には十分注意する必要がある。中小 M&A の最終契約締結前に、極秘に親族や幹部役員等のごく一部の関係者にのみ知らせることもあるが、それ以外の関係者に対しては、原則として可能な限りクロージング後(早くとも最終契約締結後)に知らせるべきである。取引先や従業員に意図せず情報が伝わってしまったり、経営者が不用意な一言を発したりしたせいでトラブルとなり、中小 M&A が頓挫してしまうケースも見受けられる。この点には、初期から注意しておく必要がある。譲り渡し側が自ら譲り受け側を探す場合に、取引先や同一地域内の同業者等に打診するときにも、同様に注意が必要である。中小 M&A に関する情報を関係者に知らせる時期については、まず譲り渡し側・譲り受け側双方において協議されたい。
また、複数の支援機関に相談して複数の支援機関がマッチング支援を試みる場合には、譲り渡し側に関する情報が必要以上に外部に流出するおそれがあり、むしろ譲り渡し側にとってリスクとなり得るため注意が必要である。例えば、複数の支援機関が、同じ譲り渡し側の情報を同じ譲り受け側に紹介することにより、情報が出回っているように感じられ、譲り受け側の心証が害されることがあり得る。そのため、譲り渡し側は、基本的には単独の支援機関にマッチング支援を依頼することが多いが、仮に別の支援機関にもマッチング支援を依頼したり、セカンド・オピニオンを求めたりすることを希望する場合には、事前にその旨を元の支援機関に伝えておく必要がある(ただし、譲り渡し側・譲り受け側に関する情報の管理等の観点から、このような希望を容認しない支援機関もあるため、このような場合には元の支援機関とよく相談されたい。)。
(3) 中小 M&A 手続進行上の留意点
中小 M&A の手続は、後述の中小 M&A フロー図に記載の各工程を踏まえて進むことが多いが、対象となる譲り渡し側の事業規模が特に小規模な場合には、より簡易な形で実施することが現実的なケースも多く見られる。本ガイドラインはあくまで中小M&A の基本的な手続を示すものであり、全ての中小 M&A において厳格に本ガイドラインに記載する全ての手続を実施することを要請するものではない。
むしろ、譲り渡し側は、譲り受け側及び支援機関との信頼関係を築いた上で、譲り受け側の意向に誠実に対応することが中小 M&A の手続の円滑な進行のために必要であることを理解されたい。
II 中小 M&A の進め方
1 中小 M&A に向けた事前準備
譲り渡し側経営者が、中小 M&A を実行すべきかどうかについての意思決定を単独で行うことは容易なことではない。したがって、まずは早期に身近な支援機関へ相談した上で、支援機関による助言の下で中小 M&A の事前準備を行うことが望ましい。
(1) 支援機関への相談
譲り渡し側経営者が中小 M&A の意思決定を行うに当たっては、様々なポイントを検討することになる。しかしながら、譲り渡し側経営者が単独で検討していても、日々の業務への対処等が優先してしまい、なかなか検討が進まないことが多い。また、専門的な知見を有しない中で検討を続けることで誤った判断を行うおそれもある。
そのため、譲り渡し側経営者がまず行うべきことは、身近な支援機関への相談である。具体的には、商工団体、士業等専門家(公認会計士・税理士・中小企業診断士・弁護士等)、金融機関、M&A専門業者のほか、事業引継ぎ支援センターといった公的機関があり、まずはこういった支援機関に相談することが望まれる。
実際には、まず顧問の士業等専門家(特に顧問税理士)に相談することも多いと思われるが、自身が相談しやすいと考えられれば、所属する商工団体、取引金融機関等に相談してもよい。公的機関である事業引継ぎ支援センターや、政府系金融機関である日本政策金融公庫でも相談を受けている。
その際には、まず、直近3年分の税務申告書・決算書(損益計算書・貸借対照表を含む。)・勘定科目内訳明細書の写しを用意すれば十分である。可能であれば会社案内や自社ホームページの写し等といった、譲り渡し側の事業の概要が分かる資料も用意できるとよい。これら以外の詳細な資料は、支援機関からの指示を受けてから準備すれば足りる。
中小 M&A の意思決定がまだ済んでいないから相談を控えるのではなく、むしろ、
意思決定がまだ済んでいないからこそ相談することが必要である。
なお、支援機関への相談の際には、自分にとってマイナスな情報や後ろめたい情報ほど先に伝えておく真摯な姿勢が望まれる。これにより支援機関も課題への対応策や解決方法等を早期に検討しやすくなり、円滑な中小 M&A に資することになる。
(2) 後継者不在であることの確認
譲り渡し側経営者は、親族内・社内に後継者候補がいないこと(つまり後継者が不在であること)を確認しておく必要がある。具体的には、親族内承継を実施しないことにつき身近な親族(特に子や兄弟)から了解を得ておくこと、社内に後継者候補がいないこと(従業員承継が不可であること)を確認しておくことが必要である。この際、前述のとおり、秘密保持の観点には注意が必要である。
(3) 引退後のビジョンや希望条件の検討
譲り渡し側経営者は、引退後のビジョンを含む希望条件を事前によく考えておく必要がある。例えば、当面は譲り渡し側・譲り受け側の事業に関わり続けたいのか、別の事業に進出したいのか、それとも社会貢献活動や余暇を楽しむといった全く別のことを行いたいのか等、引退後にどのような過ごし方を選択するかといった点は、本人のその後の人生にとって重要な要素である。
また、希望条件についても、代金(譲渡対価)の金額や従業員の雇用継続は、譲り渡し側経営者として懸念することの多い重要な要素の1つではあるが、希望条件として検討すべき要素はこれに限定されるものではない。
譲り渡し側経営者は、中小 M&A における希望条件を明確化し、可能な限りで優先順位を付しておくことが望ましい。中小 M&A は相手があることであり、譲り渡し側の希望が確実に受け入れられるわけではないが、そのような場合に譲歩できない点を固めておくことは、譲り受け側とどのような点を交渉すべきかを明確化することになり、円滑な交渉の実現にも資するものである。
(4) 中小 M&A に先立つ「見える化」「磨き上げ」(株式・事業用資産等の整理・集約)
一般的に、事業承継においては、経営状況・経営課題等の現状把握(見える化)と、事業承継に向けた経営改善等(磨き上げ)が必要とされるが、中小 M&A の実行のためには、その中でも最低限、株式・事業用資産等の整理・集約が必要である。以下では、この観点より説明する。
ただし、前述のとおり、重要なことはまず支援機関に相談することである。譲り渡し側経営者だけでは株式・事業用資産等の整理・集約が困難な場合もあるため、まずは顧問税理士等の身近な支援機関に相談することが望ましい。
なお、株式や事業用資産等の整理・集約については、法的な論点等についての検討や交渉を要することもあるので、この場合には法務の専門家である弁護士の助言を得ることが望まれる。
① 株式の整理・集約
普段は意識する機会が少ないものの、会社にとって株式は非常に重要なものである。仮に、株式が分散していたり、一部株主の所在が不明であったりする場合、中小M&A を実行する際に重大な障害となるおそれもある。
基本的に、総議決権の過半数の株式があれば株主総会決議は確実に可決することができるが、特に重要な事項(例えば、全事業の譲渡)については特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議)が必要となることがあるため、これを確実に可決できるように総議決権の3分の2以上の株式を保有しておくことが望ましい。仮に譲り渡し側経営者が譲り受け側に対して会社の全株式を譲渡する場合(株式譲渡)には、基本的に、譲り渡し側経営者が全株式を保有しておく必要がある。
そのためには、他の株主からの株式の買取り(及びそのための買取資金の調達)が必要なケースもある。
また、株主名簿が正しく整備されているか、実際に出資していない親族・知人等の名義になっている株式(いわゆる名義株)がないか、(株券発行会社の場合)株券が適切に管理されているかといった点も確認が必要である。
② 事業用資産等の整理・集約
重要な事業用資産等(不動産や機械設備等)について、第三者の名義である、担保が設定されている、遺産分割の対象として争われている、第三者との間で係争中の物件である等の場合、譲り渡し後の事業継続に支障が生じ得るため、これらについても確認が必要である。
また、中小 M&A においては、家族経営の企業が多いことから、譲り渡し側の会社の財産と経営者個人の財産が明確に分離されていないケースも多い。そのようなケースでは、譲渡する事業用資産等を譲り受け側にスムーズに譲り渡せないこともあるため、この点も明確に区別して整理・集約しておく必要がある。
2 中小 M&A における一般的な手続の流れ(フロー)
(1) 意思決定
前述のとおり、中小 M&A に関する意思決定前の段階から必要に応じて支援機関に相談しつつ、整理すべき事項を整理した上で、最終的には自ら明確に意思決定することが必要である。その上で、中小 M&A について具体的に手続を進めることになる。
中小 M&A においては、大きく分けて以下の2点が課題となる。
A マッチング以前の段階 :譲り受け側を見つける方法
B マッチング後の段階 :譲り受け側が決まった後の具体的な手続の進め方
この点を踏まえ、以下では、次の2つのパターンに分類して説明する。
(2)-1 仲介者・FA を選定する場合
(2)-2 仲介者・FA を選定せず、工程の多くの部分を自ら行う場合
また、実際には、これら2つのパターンが重なり合うこともある。例えば、次のようなケースも見られる(必要に応じて、士業等専門家を活用するケースもある。)。
〇A マッチング以前の段階において、仲介者・FA を利用せずに自ら譲り受け側を探し((2)-2)、それでも譲り受け側が見つからない場合には仲介者・FA を選定する((2)-1)、というケース
〇A マッチング以前の段階において、仲介者・FA を選定せずに M&A プラットフォー
ムを活用して譲り受け側を自ら見つける((2)-2)ものの、B マッチング後の段階においては仲介者・FA を活用して契約交渉等を行う((2)-1)、というケース
(当事者同士の間でほぼ基本合意が締結できている段階で、クロージングまでの手続のみを仲介者・FA に依頼するというケースは増えつつある。)
(2)-1 仲介者・FA を選定する場合
① 仲介契約・FA 契約の締結
まずは仲介者・FA を選定し、仲介契約・FA 契約を締結する(名称は「仲介契約」「FA 契約」のほか、「業務委託契約」「アドバイザリー契約」等とされることもある。)。
仲介者・FA の選定に当たっては、業務形態や業務範囲・内容、契約期間、報酬(手数料)体系、M&A 取引の実績(M&A に取り組んだ件数・年数等)、利用者の声等をホームページや担当者から確認した上で、複数の仲介者・FA の中から比較検討して決定することが重要である。加えて、いわゆる「相性」も重要なことがある。
また、仲介者・FA のほか、特に顧問税理士等、もともと関与のある士業等専門家の支援の下で手続を進めるケースもある(その場合には、顧問料以外に別途、報酬を支払うケースもあるため、予め確認されたい。)。
仲介者・FA によっては、業務範囲を特定の工程のみに絞っている場合もあるが、全工程を行う場合でも、特定の業種・地域に特化した仲介者・FA も存在すること等から、どのような支援が自身にとって必要かよく検討して判断する必要がある。
仲介契約・FA 契約を締結する際は、中小 M&A に関する希望条件を明確に伝えつつ締結前に納得がいくまで十分な説明を受けることが必要であり、特に業務の具体的な内容や報酬の妥当性等については、必要に応じて事業引継ぎ支援センターを含め、他の支援機関に意見を求めること(セカンド・オピニオン)も有効である(なお、仲介契約・FA 契約締結後においては、譲り渡し側・譲り受け側の情報の管理等の観点から、元の支援機関がセカンド・オピニオンを許容しないことがあるため、このような場合には元の支援機関とよく相談されたい。)。
<仲介契約・FA 契約の内容の主なポイント>
〇業務形態
小規模な中小 M&A については、FA よりも仲介者の方が多く用いられる傾向にあるが、業務形態により留意すべき事項が異なるため、いずれの業務形態であるか確認しておく必要がある。
〇業務範囲・内容
例えば、次のような形が考えられる。
・譲り渡し側・譲り受け側のマッチングまで
・バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)やデュー・ディリジェンス(DD)まで
・株式譲渡や事業譲渡といった具体的なスキーム(手法)の策定まで
・クロージング(決済)まで
・PMI(M&A 実行後における事業の統合に伴う作業)まで
ただし、これらはあくまで例示に過ぎず、業務範囲・内容は、各仲介者・FA によって異なる。手数料と比較して十分な内容であるとして納得できるかどうか、必要であれば事業引継ぎ支援センター等へのセカンド・オピニオンも活用しながら、十分に検討することが望ましい。
〇手数料の体系
例えば、次のような体系が考えられる。
・着手金(主に仲介契約・FA 契約締結時に支払う)
・月額報酬(主に一定額を毎月支払う)
・中間金(例えば基本合意締結時等、案件完了前の一定の時点に支払う)
・成功報酬(主にクロージング時等の案件完了時に支払う)
ただし、これらはあくまで例示に過ぎず、手数料の金額や体系は、各仲介者・FAによって異なる。例えば、これらを全て請求する仲介者・FA もいる一方、着手金・月額報酬・中間金を請求せずに成功報酬のみ請求する(いわゆる完全成功報酬型の)仲介者・FA もいる。
また、成功報酬を算定する際には、一定の価額(例えば、譲渡額、移動総資産額、純資産額といったものが考えられ、各仲介者・FA によって異なる。)に、一定の方式に則った計算を施すものが多い。その場合でも、最低手数料が定められているケースも多い(その水準は、各仲介者・FA において異なるため、比較検討することが望ましい。)。
なお、仲介者の場合は、譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結の上、譲り渡し側・譲り受け側の双方に対し手数料を請求することが通常である。
〇秘密保持
情報の漏えいがあった場合には M&A が頓挫してしまうことがあり、秘密保持の観点は重要であるため、仲介者・FA との間の業務委託契約等においても、秘密保持条項が含められていることが通常である。
特定の者(例えば、公認会計士、税理士、弁護士等の士業等専門家)への情報共有が許容されている場合(秘密保持義務が一部解除されている場合)もあるため、そのような規定があるかも確認しておくことが望ましい。
〇専任条項
通常、マッチング支援等において並行して他の仲介者・FA への依頼を行うことを禁止する条項(いわゆる「専任条項」)が設けられている。他の仲介者・FA にセカンド・オピニオンを求めることや他の仲介者・FA を利用してマッチングを試みること等、禁止される行為が具体的にどのような行為であるのかという点を予め確認しておくことが望ましい。また、契約期間や中途解約に関する事項等についても併せて確認しておくことが望ましい。
〇 テール条項
マッチング支援等において、M&A が成立しないまま、仲介契約・FA 契約が終了した後、一定期間(いわゆる「テール期間」)内に、譲り渡し側が M&A を行った場合に、その契約は終了しているにもかかわらず、その仲介者・FA が手数料を請求できることとする条項(いわゆる「テール条項」)が定められる場合がある。テール期間の長さ(最長でも2年~3年以内が目安である。)や、テール条項の対象となるM&A(基本的には、その仲介者・FA が関与・接触し、譲り渡し側に対して紹介した譲り受け側との M&A のみに限定される。)について、予め確認しておくことが望ましい。
② 仲介者・FA の比較
仲介者・FA の業務内容等は、概ね、以下のとおりである。なお、マッチング支援等において、仲介者は譲り渡し側・譲り受け側の双方から手数料の支払を受けることが通常である。したがって、譲り渡し側の事業規模が小さく、支援機関に対して単独で手数料を支払うだけの余力が少ない小規模な中小 M&A については、FA よりも仲介者が多く用いられる傾向にある。
〇仲介者
・業務内容:譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結する。
・特徴:譲り渡し側・譲り受け側の双方の事業内容が分かるため、両当事者の意思疎通が容易となり、中小M&A の実行に向けて円滑な手続が期待できる。
・活用するのに適するケース
譲り渡し側が譲渡額の最大化だけを重視するのではなく、譲り受け側とのコミュニケーションを重視して円滑に手続を進めることを意図する場合
譲り渡し側の事業規模が小さく、支援機関に対して単独で手数料を支払うだけの余力が少ないが、できるだけ支援機関のフルサービスを受けたい場合
〇FA
業務内容:譲り渡し側・譲り受け側の一方と契約を締結する。契約者の意向を踏まえ、契約者に対し踏み込んだ助言・指導等まで行うことが多い。
特徴:一方当事者のみと契約を締結しており、契約者の利益に忠実な助言・指導等を期待しやすい。
・活用するのに適するケース
譲り渡し側が譲渡額の最大化を特に重視し、厳格な入札方式(最も有利な条件を示した入札者を譲り受け側とする方式)による譲り渡しを希望する場合(例えば、債務整理手続を要する債務超過企業の M&A の場合等)
このような手続を実施するための費用負担能力がある場合(特に、規模が比較的大きい M&A の場合)
(2)-2 仲介者・FA を選定せず、工程の多くの部分を自ら行う場合
取引先や地域内の同業他社等を譲り受け側として自ら見つけるケースは、近年、増加の傾向にあるとされる。
また、インターネット上のシステムを活用し、オンラインで、譲り渡し側と譲り受け側のマッチングの場を提供するウェブサイトである M&A プラットフォームに登録することが、中小 M&A 実現の可能性を高めるという点で有効なケースもある。各 M&A プラットフォームにおいて、登録案件数、登録が必要な情報の種類、登録された情報が開示される範囲や、マッチング後の支援の有無・内容等には差異があるので、数社を比較検討することが望ましい。
これらのケースでも、前述のとおり、秘密保持に注意する等、慎重な対応を要するポイントが多いことから当事者同士で手続を進めることに不安を感じた場合には、士業等専門家等や事業引継ぎ支援センター等の公的機関に相談することが望ましい。
※ 以下の記載は、(2)-1 を前提とするが、(2)-2 の場合であっても、仲介者・FA や士業等専門家を一部の工程について利用する場合には、その工程において、以下に準じた対応を行うことが考えられる。
(3) バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
仲介者・FAや士業等専門家が、譲り渡し側経営者との面談や提出資料、現地調査等に基づいて譲り渡し側の企業・事業の評価を行う。
中小 M&A では、「簿価純資産法」、「時価純資産法」又は「類似会社比較法(マルチプル法)」といったバリュエーションの手法により算定した株式価値・事業価値を基に譲渡額を交渉するケースが多いが、事例ごとに適切な方法は異なるため、相談先の支援機関に相談の上、各事例において選択することが望ましい。
また、算出された金額が必ずそのまま中小 M&A の譲渡額となるわけではなく、交渉等の結果、「簿価純資産法」又は「時価純資産法」で算出された金額に数年分の任意の利益(税引後利益又は経常利益等)を加算する場合等もあり、当事者同士が最終的に合意した金額が譲渡額となるという点は理解されたい。
(4) 譲り受け側の選定(マッチング)
中小 M&A を進める上で、マッチングは重要な工程である。
マッチングを具体的に進めるに当たり、仲介者・FA は、通常、まず譲り渡し側を特定できない内容のノンネーム・シート(ティ―ザー)を、数十社程度にまで絞り込んだリスト(ロングリスト)内の企業に送付し打診する。その上で、関心を示した候補先から譲り受け側となり得る数社程度をリスト(ショートリスト)化し、これらとの間で秘密保持契約を締結した上で、その後の手続を進めることが通常である。仲介者・FA は、譲り渡し側についての企業概要書を譲り受け側の候補先に交付し、その後のマッチング支援等を行う。
譲り渡し側は、マッチングを希望する候補先、あるいは打診を避けたい先があれば、事前に仲介者・FA に伝えることが望ましい。また、打診を行う優先順位について、仲介者・FA との間で十分な話し合いを行われたい。
なお、仮に、リスト内の候補先とのマッチングが連続して不調に終わったとしても、その後に譲り渡し側の事業を評価する候補先が現れて、中小 M&A が成立する可能性は十分にある。それでもなお、譲り渡し側が譲り受け側を見つけることができず、やむなく廃業せざるを得ない場合には、事業において利用していた事業用資産等の経営資源の引継ぎの検討を開始することが望まれる。譲り受け側の探索をいつ打ち切るかは、譲り渡し側と仲介者・FA とで協議の上で決定されたい。
(5) 交渉
交渉の進め方は、譲り渡し側・譲り受け側の関係や事業の類似性、譲り渡し側・譲り受け側と仲介者・FA との関係度合等により、譲り渡し側・譲り受け側の経営者同士の面談(トップ面談)の時期や方法も含め、様々な形態がある。
特に、トップ面談は、譲り受け側の経営理念・企業文化や経営者の人間性等を直接確認するための場であり、その後の円滑な交渉のためにも重要な機会である。一方、自分の態度や表情も相手方に直接伝わりやすく、不用意な言動も信頼を損なうおそれがあるため誠意ある態度で真摯に面談に臨む必要がある。
また、トップ面談を含む交渉の際には、中小M&Aにおける希望条件を明確化し、可能な限りで優先順位を付し、特に、絶対に譲歩できないのがどの点なのか固めておくことが望ましい。
いずれにせよ、仲介者・FA と緊密なコミュニケーションを取り、仲介者・FA のアドバイスを得て交渉を進めることが重要である。
なお、譲り渡し側経営者は、特に中小 M&A 実行後の従業員の処遇を懸念することが多く、それが中小 M&A の促進にとって阻害要因になっているおそれもある。実際、中小 M&A 実行後に従業員の一斉解雇(リストラ)が行われるケースは多くないと言われるが、譲り渡し側経営者は、譲り受け側経営者が譲り渡し側幹部役員等に対して高圧的な態度を取ることなく、譲り受け側役員・従業員と同等に接する姿勢を心掛けているか、確認しておくことが考えられる。
(6) 基本合意の締結
当事者間の交渉により概ね条件合意に達した場合には、譲り渡し側と譲り受け側との間で最終契約におけるスキーム(株式譲渡や事業譲渡といった手法)、デュー・ディリジェンス(DD)前の時点における譲渡対価の予定額や経営者その他の役員・従業員の処遇、最終契約締結までのスケジュールと双方の実施事項や遵守事項、条件の最終調整方法等、主要な合意事項を盛り込んだ基本合意を締結する。
基本合意の締結に当たっては、仲介者・FA や士業等専門家の助言を受けて調印することが大切である。
ただし、資金繰り等の関係で、クロージング(決済)を急ぐ必要がある場合には、基本合意を締結せず、最低限の秘密保持契約の締結のみに留めて、最終契約締結に直接進むケースもあるため、状況に応じて、仲介者・FA や士業等専門家に相談されたい。
(7) デュー・ディリジェンス(DD)
デュー・ディリジェンス(DD)は、主に譲り受け側が、譲り渡し側の財務・法務・ビジネス(事業)・税務等の実態について、FA や士業等専門家を活用して調査する工程であり、譲渡対価の金額の精査や、判明した実態を踏まえて更に事業の改善を行うこと等の目的で行われる。譲り受け側が DD を行う場合、どの調査を実施するかについては、譲り受け側の意向に従うこととなる。
通常、譲り受け側が FA や士業等専門家に調査の実施を依頼する。譲り渡し側が、中小 M&A に関して社内(役員・従業員等)への情報開示を行っていない場合は、その非開示の役員・従業員等に悟られずに実施する等の工夫が必要であるため、譲り渡し側・譲り受け側ともに、FA や士業等専門家の指示を守ることが重要である。
なお、DD は、想定し得るリスク全般について調査することもあれば、対象事項等を限定して簡易な形で行うこともあり、調査の密度は様々である。中小 M&A の実務においては、譲り受け側が専門家費用を投じて本格的な DD を行うことなく、譲り渡し側の数年分の税務申告書の確認及び譲り渡し側経営者へのヒアリング等の調査だけで終えることもある。
(8) 最終契約の締結
デュー・ディリジェンス(DD)で発見された点や基本合意で留保していた事項について再交渉を行い、最終的な契約を締結する工程である。
仲介者・FA や士業等専門家のアドバイスを受けながら、契約内容に必要な事項が網羅されているかを最終的に確認した後、調印を行う。仲介者・FA や士業等専門家によるアドバイスに納得できず、不安がある場合には、調印前に契約内容に関する意見を他の支援機関に求めること(セカンド・オピニオン)も有効である。また、契約に盛り込む内容や条件を早い段階から仲介者・FA に伝えておいた方が、円滑な契約締結につながることが多い。
中小 M&A の実務においては、株式譲渡か事業譲渡の手法が選択されることが多い。それぞれの手法の大まかな特徴は以下のとおりである(その他の手法も存在する)。なお、株式譲渡も事業譲渡も、全部譲渡は必須ではなく、一部譲渡のケースもあるが、その点は譲り渡し側・譲り受け側の協議・交渉によって決定されることになる。
〇 株式譲渡
譲り渡し側の株主(多くの場合は経営者)が、譲り受け側に対し、譲り渡し側の株式を譲渡する手法である。手続は比較的シンプルだが、譲り渡し側の法人格に変動はないため、(未払残業代等、貸借対照表上の数字には表れない)簿外債務・(紛争に関する損害賠償債務等、現時点では未発生だが将来的に発生し得る)偶発債務リスクが比較的高くなりやすく、より詳細なデュー・ディリジェンス(DD)が実施される傾向にある。
〇 事業譲渡
譲り渡し側が、譲り受け側に対し、自社の事業を譲渡する手法である。譲渡の対象となる財産(承継対象財産)を選択でき、譲り渡し側の法人格から切り離すことができるため、簿外債務・偶発債務リスクを比較的遮断しやすいが、手続には(土地、建物や機械設備等といった)承継対象財産の特定や、(不動産登記手続等の)対抗要件具備、許認可の取得等の作業が必要になる。
なお、個人事業主の中小 M&A は、事業譲渡の手法を用いることが通常である。
また、最終契約で取り決める主要な内容は以下のとおりである(株式譲渡・事業譲渡の両方に共通である。)。
・ 譲渡対象(何を譲渡するか)
- 譲渡時期(いつ譲渡対象を譲渡するか)
・ 譲渡対価(代金をいくらにするか)
・ 支払時期・方法(譲渡対価をいつどのような方法で支払うか)
・ 経営者・役職員の処遇(経営者による引継ぎ期間や、従業員の雇用継続の努力義務等を設けてあるか)
・ 表明保証条項(双方が取引を実行する能力を有していることの確認等を含め、何を求められており、仮に違反した場合にどのような補償等を求められているか)
・ クロージングの前提条件(クロージングまでに何を行う必要があるか)
・ 競業避止義務(譲渡後に競合する事業を行うことがどの程度禁止されているか)
・ 契約の解除事由(どのような場合に契約を解除できるか) 等
なお、譲渡対価は、クロージングを迎えて初めて支払われることが通常であり、最終契約締結後クロージングまでの時期に関して、最終契約上で何らかの条件(前述のクロージングの前提条件)が規定されることもある。また、譲り渡し側・譲り受け側の協議において、中小 M&A に関する情報をクロージング後に公表する旨の合意をしている場合には、それまでの間、秘密保持を貫く必要がある。中小 M&A は、最終契約締結によって全て完了するものではない、という点には注意が必要である。
(9) クロージング
中小 M&A の最終段階であり、株式等の譲渡や譲渡対価の支払を行う。特に譲り受け側から譲渡対価の全部又は一部が確実に入金されたことを確認することが必要である。
仮に事業譲渡の手法を選択し、承継対象財産の中に不動産が含まれる場合には、クロージング後速やかに登記手続を行う必要があるため、クロージングにおいて登記必要書類を授受することが通常である。そのような場合には、司法書士等とも日程調整の上、クロージングに向けた具体的な段取りの準備を進める。
金融機関からの借入金や不動産等への担保設定がある場合は、担保解除(及びこれに伴う担保抹消登記手続)につき、取引金融機関との調整が予め必要となることがあり、その場合には、自ら調整を行うか、仲介者・FA や士業等専門家の指示に従い、必要な手続を進めることが必要である。
(10) クロージング後(ポスト M&A)
クロージングを迎えた後も譲り渡し側経営者は、PMI(M&A 実行後における事業の統合に伴う作業)として、譲り受け側による円滑な引継ぎ等に向けて、誠実に対応する必要がある(最終契約において具体的な協力義務等を定めている場合には、これを果たす必要がある。)。
例えば、株式譲渡や事業譲渡の場合、以下のような引継ぎ等の作業が必要となる。
<共通>
・ 中小 M&A クロージングについての役員・従業員や取引先等に対する報告
・ リース契約・賃貸借契約・金銭消費貸借契約等に関する名義変更・経営者保証解除・(連帯)保証人変更(なお、クロージング前に、リース会社・賃貸人・取引金融機関等との協議・交渉を開始することが多い。特に、賃貸借契約等についてのチェンジ・オブ・コントロール条項の定めがある場合には、当該契約等の継続のために事前に賃貸人等との協議や交渉が必要になることがあるため、注意が必要である。)
・ 業務フローの引継ぎ・業務管理体制の構築 等
<株式譲渡の場合>
・ 代表者変更のための株主総会・取締役会や登記手続 等
<事業譲渡の場合>
・ 売掛金の振込先口座の変更
・ クロージング後における売掛金の入金・買掛金の出金の清算
・ 給与体系・就業規則その他の人事労務関係の統一等
譲り渡し側は、譲り受け側の希望に応じて、引継ぎ等の作業に適宜協力することが望まれる。こういった作業には、3か月~1年程度の時間を要することが多いが、個別のケースにおいて異なる。
この工程を経て、譲り渡し側経営者は、徐々に事業運営から離れていくことになり、また、譲り受け側は、譲り渡し側の事業を実質的にも引き継ぐことになる。
III M&A プラットフォーム
近年、我が国における中小 M&A においても、オンラインの M&A プラットフォームが急速に普及しつつあることから、以下では M&A プラットフォームについて説明する。ただし、M&A プラットフォームの市場は比較的新しく、仕組みや留意点等も今後大きく変わり得る点には留意が必要である。
1 M&A プラットフォームの基本的な特徴
M&Aプラットフォームは、譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステムに登録することで、主にマッチングをはじめとする中小 M&A の手続を低コストで行うことができる支援ツールである。
特に譲り渡し側については無料で登録できる M&A プラットフォームが相当数あり、マッチングのために支援機関に相当額の手数料を支払う資力のない小規模な事業者であっても、中小 M&A の可能性が大きく広がったと評価できる。また、譲り渡し側、譲り受け側といった当事者が自ら相手先を探すことができるケースもあり、従前はM&A 専門業者しか接触できなかった中小 M&A の案件情報に直接接触することができるようになるため、よりスピーディな交渉が可能となった。そのため、近い将来に廃業することを検討している小規模な事業者であっても、廃業以外の選択肢が現実的にあり得るとの認識の下、M&A プラットフォームの活用を積極的に検討することが望まれる。
2 M&A プラットフォーム利用の際の留意点
M&A プラットフォーム利用の際には、以下の点に留意することが必要である。
(1) 情報の取扱い
まず、注意すべきことは情報の取扱いである。ノンネーム情報であったとしてもインターネットの特性上、個者が特定されるリスクを踏まえ、自社の情報をどの程度まで開示対象とするか慎重に検討しておく必要がある。
また、M&A プラットフォームごとに、情報を開示する相手方が異なることも注意が必要である。例えば、法人・個人問わず閲覧・掲載が可能な M&A プラットフォームもあれば、法人のみに限った M&A プラットフォームもある。
どの程度の情報をどこまでの範囲で開示するのか、自身のニーズに照らし合わせて検討することが望ましい。
万が一、一度でもインターネット上に情報が流出してしまうと、それを完全にインターネット上から消去することは困難であるため、ある程度は公開されても受忍できる程度の情報しか掲載しないといった慎重な姿勢が望まれる。この点は、インターネット上でオープンに公開されていない、閉じられた(クローズドな)M&A プラットフォームであったとしても同様である。
(2) 利用する M&A プラットフォームの選択
M&A プラットフォームにはそれぞれ特徴があるため、どの M&A プラットフォームを使うべきかについても検討が必要である。
情報の開示範囲について、法人・個人問わず閲覧・掲載が可能な M&A プラットフォームであれば、マッチングの可能性を広げることができるというメリットがあるのに対し、法人のみに限った M&A プラットフォームであれば、法人の情報が登記情報等により比較的取得しやすいことから M&A プラットフォームの安全性を一層高めることができるというメリットがあると想定される。特に、情報開示先となる譲り受け側をどの程度まで制限するかは、重要なポイントである。
一方、仕組みも M&A プラットフォームによって違いがある。例えば、譲り渡し側・譲り受け側双方から交渉を始められる M&A プラットフォームもあれば、譲り渡し側からしか交渉を始められない M&A プラットフォームもある。また、当事者が直接登録・交渉できる M&A プラットフォームもあれば、FA を介してのみ登録・交渉が可能な M&Aプラットフォームもある。したがって、各社の仕組みを理解した上で活用することが重要である。真に極秘で進めたい案件は、M&A プラットフォームには向いておらず、仲介者・FA との使い分けが必要になると思われる。
また、一部の M&A プラットフォームは、仲介者・FA や士業等専門家の紹介や IT を活用した中小 M&A の手続の支援を行っているが、M&A プラットフォームはあくまで譲り渡し側・譲り受け側のマッチングまでに留まることが一般的である。マッチング後の基本合意・最終契約締結や、これに関する条件交渉等の具体的な手続は、原則として、譲り渡し側・譲り受け側の当事者が行うことになる。しかしながら、中小 M&A において、各当事者は中小 M&A に関する知見を有していないことが多いことから、事業引継ぎ支援センターや士業等専門家等の支援機関による支援を受けながら手続を進めていくことが望ましい。
3 M&A プラットフォームの手数料
(1) 料金体系
現在、譲り渡し側について、M&A プラットフォームを利用したマッチングに関し、一切の手数料が発生しないケースが多い。しかしながら、今後、M&A プラットフォーム市場がより発展することにより、譲り渡し側の件数が増えてくれば、譲り渡し側においても手数料が発生するケースも増えてくる可能性はある。
一方、譲り受け側については、マッチング後のクロージング時点で成功報酬が発生する形(いわゆる完全成功報酬型)が多い。この場合、着手金・月額報酬・中間金等は発生しないケースが多い。譲り受け側における手数料は、譲渡額等の数%程度とされることが多い(最低手数料を設けるところもあれば、設けないところもある。)。
なお、譲り渡し側・譲り受け側とも、M&A プラットフォームの利用とは別に、特にマッチング後の手続において、仲介者・FA や士業等専門家への依頼も行う場合には、これらについての手数料・報酬が別途、必要となる。
(2) 具体例
以下では、仮に、M&A プラットフォームを利用して中小 M&A のマッチングを行った場合に支払うことになる手数料について、具体的な事例を示す。なお、消費税及び地方消費税は合計10%と仮定する。
〇事例
M&A プラットフォームを利用してマッチングを試みたところ、譲渡額2000万円の株式譲渡が成立したケース
・譲り渡し側:手数料なし
・譲り受け側:成功報酬3%(基準:譲渡額、最低手数料:30万円(税抜))
※マッチング後の手続について、M&A 専門業者や士業等専門家からも支援を受ける場合には、これらについての手数料・報酬も別途発生する。
〇 手数料
・成功報酬:2000万円×3%×110%=66万円(税込)
⇒手数料総額:66万円(税込)
IV 事業引継ぎ支援センター
事業引継ぎ支援センター(以下「センター」という。)は、経済産業省の委託を受けた機関(都道府県商工会議所、県の財団等)が実施する事業である。具体的には、中小 M&A のマッチング及びマッチング後の支援、従業員承継等に係る支援に加え、事業承継に関連した幅広い相談対応を行っている。
センターは、全国48か所(全都道府県に各1か所、ただし東京都は2か所)に設置されており、地域金融機関 OB や、公認会計士・税理士・中小企業診断士・弁護士等の士業等専門家といった、中小 M&A の知見を有する専門家が常駐している。
以下では、主として、譲り渡し希望者に向けた、センターでの支援内容とその留意点を説明する。その際には、事業者同士の中小 M&A の支援と、それ以外の支援とに分けて説明する。
1 事業者同士の中小 M&A の支援
(1) 支援フロー
① 初期相談対応(一次対応)
本工程は、センターが中小企業からの相談に対応し、支援の方向性を判断するものである。具体的には、中小 M&A のみならず、従業員承継や廃業等に対する相談を幅広く受け付けており、相談時点において意思決定ができていないものについても対応している。センターでは相談者のニーズを把握した上で、適切な対応策の検討を行っている。センターは、中小企業再生支援協議会やよろず支援拠点といった他の公的機関のほか、士業等専門家を含む民間の支援機関とも連携をしており、中小 M&A以外の対応が適切であると判断した場合には、適切な支援機関への橋渡しを行っている。
このため、特に中小 M&A の意思決定ができていない場合において、センターに相談することは様々な選択肢を検討するという観点から有益であると考えられる。
また、センターでは、公的な相談窓口として、他の仲介者・FA からのアドバイスについてのセカンド・オピニオンを求めることもできるため、既に中小 M&A の工程が進んでいる場合において、支援を受けている仲介者・FA の対応に疑問が生じた場合等も、相談することが可能である。
② 登録機関等による M&A 支援(二次対応)
本工程は、一次対応を経て、相談者が中小 M&A の実行について意思決定した場合に、センターが登録機関等の中で適切な支援ができる者がいると判断した場合に、当該登録機関等への橋渡しを行うものである。
登録機関等の支援を受ける場合は、登録機関等と仲介契約・FA 契約を締結することになるため、手数料が発生するが、登録機関等からよりきめ細やかな支援を受けられることが期待できる。
③ センターによる M&A 支援(三次対応)
本工程は、二次対応において適当な登録機関等が存在しない場合、又は、一次対応時点で、特定のマッチング相手が決まっている、若しくは、合意ができている者に対してその後の手続の一部をセンターが直接支援するものである。マッチング相手が決まっていない場合は、後述するセンターが保有するデータベースも活用しながら相手探しを実施する。マッチング相手が見つかった場合には、クロージングまでの各工程を円滑に進めるため、士業等専門家の活用を含めた支援を行う。
具体的には、税務面・法務面に関する士業等専門家への相談や、企業概要書の作成が必要である場合において、センターが外部専門家等を紹介し、これらの者と連携して作成の支援を行う。外部専門家等の利用は譲り渡し希望者にとって費用負担が生じるものの、税務面・法務面での見解が重要なポイントとなるケースもあるので、必要に応じて外部専門家等を活用することが望ましい。
(2) センターの構築するデータベース
センターでは、相談に来た譲り渡し、譲り受けを希望する事業者及び登録機関等が保有する情報等をデータベース化し、マッチングの相手探しを行っている。
データベースは、掲載する事業者の許諾範囲に応じて全国のセンター内のみでの共有又は登録機関等への開示も可能としている。なお、掲載に当たっては、個別の事業者が具体的に特定されない範囲でノンネーム情報のみが掲載される。
2 その他の支援
センターでは、事業者同士の中小 M&A のみならず、創業希望者(事業を営んでいない個人)とのマッチングを行う「後継者人材バンク」事業、廃業を希望している中小企業の「経営資源の引継ぎ」についての支援も行っている。以下、それぞれの支援内容を概説する。
(1) 後継者人材バンク
後継者人材バンクは、後継者不在の中小企業(主として個人事業者)と創業希望者(事業を営んでいない個人)とのマッチングを行う支援である。譲り渡し側にとっては事業を存続させることができ、譲り受け側の創業希望者にとっては譲り渡し側の事業をそのまま引き継ぐことにより、創業に伴うリスクを抑えることができる。
後継者人材バンクではセンターの支援の下、マッチングからクロージングに至るまでの工程について支援を行っている。
(2) 経営資源の引継ぎ
センターでは、廃業を希望している者の事業又は主たる事業用資産等の経営資源の引継ぎ(一部、中小 M&A も含む。)についての相談にも対応している。
具体的には、廃業を希望している者に対して、中小 M&A の提案、マッチングの相手探し、事業の一部譲渡を含む経営資源の引継ぎについての支援を行う。
経営資源の引継ぎに関しては、事業又は経営資源について、センターの支援の下、マッチングからクロージングに至るまでの工程について、支援を行っている。
V 仲介者・FA の手数料についての考え方の整理
1 手数料の種類
料金体系として、着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の形式が多く見られることから、これらの概要について、以下、整理する。ただし、仲介者・FA の手数料には一般的な法規制がなく、どのような料金体系を採用するかは、あくまで各仲介者・FA による点については留意が必要である(着手金・月額報酬・中間金を設けず、成功報酬のみを設ける仲介者・FA も相当数あるとされる。)。なお、別途、実費(交通費等)を請求することもある。
(1) 着手金
着手金は、主に依頼者との仲介契約・FA 契約締結時に発生する手数料である。成功報酬が発生した場合には、当該成功報酬に含まれる(成功報酬の内金となる)ものとすることもある。請求する仲介者・FA と、請求しない仲介者・FA に分かれる。
(2) 月額報酬
月額報酬(定額顧問料、リテーナーフィーと呼ばれることもある。)は、主に月ごとに定期的に定額で発生する手数料である。後述の成功報酬が発生した場合には、当該成功報酬に含まれる(成功報酬の内金となる)ものとすることもある。請求する仲介者・FA と、請求しない仲介者・FA に分かれる。
(3) 中間金
中間金は、基本合意締結時等、案件完了前の一定の時点に発生する手数料である。後述の成功報酬が発生した場合にはこれに含まれる(成功報酬の内金となる)ものとすることが多い。請求する仲介者・FA と、請求しない仲介者・FA に分かれる。
(4) 成功報酬
成功報酬は、主にクロージング時等の案件完了時に発生する手数料である。仲介者・FA の場合は、主に以下の3つの基準となる価額のいずれかに、一定の方式に則った計算を施すものが多い。ただし、これらを組み合わせたり、修正したりする方式もあれば、これらと全く異なる方式(例えば、定額)を採用する仲介者・FA も存在する。
なお、後述のとおり、最低手数料が設けられるケースが多いが、その金額の水準も各仲介者・FA によって異なるため、複数の仲介者・FA を比較検討することが望ましい。
① 譲渡額(譲受額)
譲り渡した(譲り受けた)金額そのものを基準とするものである。基準として理解しやすいと言える。
譲り渡し側の場合には、譲渡額が高くなれば手数料の金額が高くなることにも合理性が認められるが、譲り受け側の場合には、譲受額が高くなるほど手数料の金額も高くなり負担感が増すため、異なる算定方法(例えば、譲り受け側のみ定額とする等)が合理的であることが多い。
② 移動総資産額
主に譲渡額に負債額を加えた、いわゆる「移動総資産額」を基準とするものである。
これは、譲り渡し側の(移動)総資産額は、その事業規模に連動して大きくなる傾向にあるとの考えによるものである。したがって、同じ譲渡額であっても、負債(特に借入金)の金額が高い方が、手数料は高くなるということになる。
③ 純資産額
資産と負債の差額である。簿価純資産額の場合には、決算書上の記載を基に容易に計算でき、明確であるという特徴があるため、特に譲り渡し側が小規模企業の場合には、簿価純資産額を基準とすることがある。なお、譲り渡し側が債務超過企業の場合には、純資産額がゼロ円以下となってしまうため、通常、別の要素を考慮する譲渡額(前述の①参照)や移動総資産額(前述の②参照)を基準とすることが多い。
2 レーマン方式
以上の価額を基に報酬を算定する手法として、レーマン方式が採られることが多い。
レーマン方式は、「基準となる価額」に応じて変動する各階層の「乗じる割合」を、各階層の「基準となる価額」に該当する各部分にそれぞれ乗じた金額を合算して、報酬を算定する手法であり、特に M&A 専門業者において広く用いられている。
例えば、下記のような表を用いて報酬を算定するが、例示された各階層における価額・割合は必ずしも下記の価額・割合に限定されるものではなく、各仲介者・FA により異なる。そもそも、レーマン方式を採用せず、「基準となる価額」によらず一律の割合を乗じるケースや、定額とするケースもある。
また、原則としてレーマン方式によるとしても、譲り渡し側が小規模である場合には、「基準となる価額」が小さく、十分な成功報酬を確保できないケースもあり得るため、これに備えて最低手数料を設けている仲介者・FA は多い。最低手数料の金額は、各仲介者・FA により異なるため、仲介者・FA に依頼しようとする中小企業は、最低手数料を含め、手数料の算出方法を明確に確認しておく必要がある。
・基準となる価額5億円以下の部分 乗じる割合5%
・基準となる価額5億円超10億円以下の部分 乗じる割合4%
・基準となる価額10億円超50億円以下の部分 乗じる割合3%
・基準となる価額50億円超100億円以下の部分 乗じる割合2%
・基準となる価額100億円超の部分 乗じる割合1%
※あくまで一例であり、各階層における価額・割合は各仲介者・FA により異なる。
3 具体例
以下では、仮に、M&A 専門業者が中小 M&A のマッチング支援等を行った場合に、譲り渡し側又は(譲り渡し側経営者であることが多い)譲り渡し側株主が支払うことになる手数料について、具体的な事例を示す。なお、消費税及び地方消費税は合計10%と仮定する。
〇 事例1
事業引継ぎ支援センターの登録機関等である M&A 専門業者に依頼したところ、6か月間の業務遂行により、譲渡額1億円の株式譲渡が成立したケース
・着手金100万円(税抜)【成功報酬は別途】
・月額報酬:なし
・中間金:なし
・成功報酬:前述のレーマン方式(基準:譲渡額、最低手数料:500万円(税抜))
※事業引継ぎ支援センターへの相談は無料であるが、登録機関等に依頼する場合は有料である。
〇 手数料
・着手金:100万円×110%=110万円(税込)・・・(a)
・月額報酬:0円
・中間金:0円
・成功報酬:1億円×5%×110%=550万円(税込)・・・(b)
⇒手数料総額:660万円(税込)・・・(a)+(b)
※譲渡額から手数料総額を控除した金額は9340万円となる。
〇 事例2
金融機関から紹介された M&A 専門業者に依頼したところ、1年間の業務遂行により、譲渡額5億円の株式譲渡が成立したケース(なお、負債額は5億円)
・着手金:なし
・月額報酬:なし
・中間金:50万円(税抜)【成功報酬に含まれる】
・成功報酬:前述のレーマン方式(基準:移動総資産額、移動総資産額:10億円、最低手数料:1000万円(税抜))
〇 手数料
・着手金:0円
・月額報酬:0円
・中間金:50万円×110%=55万円(税込)・・・(c)
・成功報酬:(5億円以下)5億円×5%×110%=2750万円(税込)
(5億円超10億円以下)5億円×4%×110%=2200万円(税込)
→2750万円(税込)+2200万円(税込)-55万円(税込)
=4895万円(税込)・・・(d)
⇒手数料総額:4950万円(税込)・・・(c)+(d)
※譲渡額から手数料総額を控除した金額は4億5050万円となる。
〇 事例3
顧問税理士から紹介された M&A 専門業者に依頼したところ、4か月間の業務遂行により、譲渡額3000万円の事業譲渡が成立したケース
・着手金:50万円(税抜)【成功報酬は別途】
・月額報酬:10万円(税抜)【成功報酬は別途】
・中間金:なし
・成功報酬:一律4%(基準:譲渡額、最低手数料:300万円(税抜))
〇 手数料
・着手金:50万円×110%=55万円(税込)・・・(e)
・月額報酬:10万円×4×110%=44万円(税込)・・・(f)
・中間金:0円
・成功報酬:300万円×110%=330万円(税込)・・・(g)
>3000万円×4%×110%=132万円(税込)
⇒手数料総額:429万円(税込)・・・(e)+(f)+(g)
※譲渡額から手数料総額を控除した金額は2571万円となる。
4 業務内容と手数料の関係
仲介者・FA の手数料には一律の基準がなく、原則として各仲介者・FA の判断に委ねられていることから、仮に同じ M&A が実現したとしても、仲介者・FA が異なれば、発生する手数料の金額は多様である。
重要なのは、あくまで、仲介者・FA の業務内容と手数料の金額が客観的に見合っているか否か、そして依頼者である中小企業やその経営者が納得できるか否か、という点である。
仲介者・FA と契約を締結する前に、まずは、業務内容が具体的に何であるのか、手数料の算定方法と発生時期はどのようになっているか、という点について入念に確認することが重要である(前述のとおり、事業引継ぎ支援センター等からセカンド・オピニオンを聴取しておくことも有効である。)。
VI 問い合わせ窓口
ここでは、中小 M&A の実施過程において、あるいは中小 M&A が終了した後に、意
見や相談を求めたいケースにおける主な問い合わせの窓口を列記するので、参考とされたい。
〇 事業引継ぎ支援センター
( https://shoukei.smrj.go.jp/contact/ )
中小 M&A 全般についての問い合わせ窓口である。
※どの窓口に相談するか迷う際には、まずこちらの窓口に相談されたい。
・ 日本弁護士連合会(ひまわりほっとダイヤル)
( https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/about_himawari.html )
日本弁護士連合会及び全国52の弁護士会が提供する電話で弁護士との面談予約ができるサービスである。
※法的な観点に基づく助言等を求めたい場合は、こちらの窓口に相談されたい。
どうぞ、お気軽にお電話ください
☎0797-62-6026