中小企業M&Aガイドライン(3)          支援機関の基本

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中小企業M&Aガイドライン(3)支援機関の基本

※中小M&Aガイドライン(令和2年3月 中小企業庁)より抜粋

第2章 支援機関向けの基本事項

I 支援機関としての基本姿勢

1 依頼者(顧客)の利益の最大化

多くの中小企業は、M&Aについての専門知識を有しないため、仮に中小M&Aに関心があるとしても、具体的にどのように行動すれば良いか分からず、結局そのまま中小M&Aを断念してしまうことがある。中小M&Aについての専門知識を有する支援機関は、そのような中小企業の意思決定やその後の諸手続の段階において適正なサポートを行うことにより、我が国における中小 M&A の促進に資する役割が期待される。

その際、依頼者(顧客)である中小企業が、支援機関の専門的な業務や手数料の妥当性等について、一般的には適切に判断することが困難である現状を踏まえて、依頼者(顧客)の利益に真に忠実に動くことが求められる点を改めて認識する必要がある。

特に、仲介者・FA や士業等専門家は、中小M&Aの手続の各段階で、重要な判断を依頼者(顧客)に求める場合には、十分に説明して納得を得た上で進める必要がある。

2 それぞれの役割に応じた適切な支援

支援機関にはそれぞれ異なる役割が期待されている。例えば、M&A専門業者は、マッチングやその後の諸手続の進捗管理等、総合的な支援を行う。金融機関は、融資を通じて中小企業の経営状況等を詳細に把握していること、また、豊富なネットワークを保有していることから、これらの情報を生かした中小M&Aに関する積極的な働き掛けを行う。商工団体は、中小企業の身近な相談相手であり、その窓口機能を生かして適切な支援機関に紹介する等の支援を行う。士業等専門家は、専門的な知見を生かしてM&Aの手続の遂行等を支援する。最近では、インターネットを活用したM&Aプラットフォームを運営するM&Aプラットフォーマーも現れている。その他、公的機関である事業引継ぎ支援センターが中小 M&A 支援を行っている。

中小 M&A 支援は、各支援機関が自らの特性や中小企業との関係性等を踏まえた適切な役割分担を認識した上で実施することが重要なことから、各支援機関において、後述する基本的な事項を理解し、実践することが強く望まれる。また、各支援機関において中小 M&A 支援に携わる者は、本ガイドラインで示した基本的な事項を適切に実施するとともに、必要な研鑽を重ね、中小 M&A 支援の質の向上に尽力することが望まれる。

3 支援機関間の連携

円滑に中小 M&A が進むケースにおいては、支援機関同士が相互に連携しあっている例が多い。

例えば、商工団体は、窓口に相談に来た譲り渡し側経営者を事業引継ぎ支援センターへとつなぐことがある。また、事業引継ぎ支援センターにおいては、金融機関、M&A 専門業者や士業等専門家等といった登録機関等へと橋渡しを行うケースも見られる。更に、M&A プラットフォームにより自らマッチングを果たした中小企業も、相手方当事者との契約交渉等の局面においては、士業等専門家の力を借りることがある。

また、特に M&A プラットフォームは、中小企業のみならず M&A 専門業者や士業等

専門家といった他の支援機関においても活用が可能であることから、保有する案件情報が少ない支援機関が M&A プラットフォームを活用してマッチングを実現し、その後の手続を自ら支援することもある。

このように各支援機関が連携することにより、円滑に中小 M&A が進むことが期待されることから、各支援機関は、自ら全てを抱え込むのではなく、必要に応じ、他の支援機関と積極的に連携することが望まれる。

II M&A 専門業者

1 M&A 専門業者による中小 M&A 支援の特色

M&A 専門業者は、M&A の仲介業務や FA 業務に従事する専門業者であり、中小M&A の実現にとって重要な役割を有する支援機関である。

M&A 専門業者がマッチング・交渉等についての支援を行うことで、これまでに数多くの中小 M&A が成立したと言え、M&A 専門業者は、近年の中小 M&A 市場の成長に相当程度の貢献を果たしてきた。

一方で、士業等専門家については法令において資格要件、業務内容、善管注意義務や刑罰等が明確にされている(各専門家団体における懲戒処分等による制裁も存在する。)ものの、M&A 専門業者については、許可制・免許制等は採用されておらず、業界全体における一般的な法規制も存在していない(例えば、不動産取引においては、宅地建物取引業法の規制が存在するが、M&A 専門業者についてこのような法規制は存在していない。)。

また、中小 M&A を支援する際には、マッチング能力や交渉に係る調整ノウハウ、更に、財務・税務・法務といった分野の専門知識が不可欠となるケースが多くあるが、支援経験や知見の乏しい M&A 専門業者等の場合には、適切に業務を進められないおそれがあると言える。

2 行動指針策定の必要性

中小 M&A 市場の拡大及びこれを支える M&A 専門業者の増加に鑑みると、各 M&A専門業者の業務方針に委ねるだけでなく、中小 M&A 市場の透明性・公正性を確保するため、一定の指針が示される必要がある。

そのため、以下では、M&A 専門業者にとっての行動指針と、M&A 専門業者に関して問題となり得る主な事項について解説する。ここでは、M&A 専門業者が仲介者・FAとなるケースを念頭に解説することとし、M&A プラットフォームを運営する M&A プラットフォーマーについては後述する。

また、金融機関、士業等専門家や M&A プラットフォーマー等が仲介業務・FA 業務等を行う場合にも、業務の性質・内容が共通する限りにおいて、以下で記載する内容に準拠した対応を想定している。

3 各工程の具体的な行動指針

以下では、中小 M&A の手続の流れに沿って、透明性・公正性の確保という観点から、M&A 専門業者の各工程の具体的な行動指針を記載する。

(1) 意思決定

通常、中小企業は M&A について十分な知見を有しておらず、自身のみでは中小M&A の手続を進めるという意思決定に踏み切ることが難しい。そのため、M&A 専門業者は自らの専門的な知見に基づき、中小企業に対して実践的な提案を行い、中小M&A の意思決定を支援する必要がある。

M&A 専門業者が当該意思決定に関与する際、留意すべき点は以下のとおりである。

・当該中小 M&A において想定される重要なメリット・デメリットを知り得る限り、相談者に対して明示的に説明すること

・相談者の企業情報の取扱いについても善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を負っていることを自覚すること

(2) 仲介契約・FA 契約の締結

仲介者・FA は、依頼者である中小企業との間で、仲介契約・FA 契約を締結する。仲介者・FA は、依頼者の意向を十分に理解し、契約締結後、当該契約上の義務として、契約内容に係る手続の各実施段階において、依頼者の意向に沿った手続を実施する必要がある。

仲介者・FA は、契約締結前に当該中小企業に対し契約に係る重要な事項について明確な説明を行い、当該中小企業の納得を得ることが必要である。説明すべき重要な点は以下のとおりである。

〇譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と契約を締結し双方に助言する仲介者、一方当事者のみと契約を締結し一方のみに助言する FA の違いとそれぞれの特徴(仲介者として両当事者から手数料を受領する場合には、その旨も含む。)

※ 仲介者の場合は、譲り渡し側・譲り受け側の双方が依頼者となるため、構造的にいずれかの当事者との間で、利益相反のおそれが生じる。したがって、仲介者は、中立性・公平性をもって譲り渡し側・譲り受け側の両当事者に接する必要があるため、利益相反のおそれがあるとして想定される事項につき、事前に両当事者に説明を行い、了承を得ておく必要がある。

※ 仲介者・FA は、それぞれ、業務形態の実態に合致した契約(仲介契約・FA 契約)を締結する必要がある。

〇提供する業務の範囲・内容(マッチングまで行う、バリュエーション、交渉、スキーム立案等)

〇手数料に関する事項(算定基準、金額、支払時期等)

〇秘密保持に関する事項(秘密保持の対象となる事実、士業等専門家等に対する秘密保持義務の一部解除等)

〇専任条項(セカンド・オピニオンの可否等)

〇テール条項(テール期間、対象となる M&A 等)

〇契約期間

〇依頼者が、仲介契約・FA 契約を中途解約できることを明記する場合には、当該中途解約に関する事項

〇(仲介者の場合)依頼者との利益相反のおそれがあるものと想定される事項

(3) バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)

バリュエーションの実施に当たっては、評価の手法や前提条件等を依頼者に事前に説明し、評価の手法や価格帯についても依頼者の納得を得ることが必要である。

その際、当該評価の手法や価格帯が唯一のものではないことを明示し、依頼者の中小 M&A において当該評価の手法や価格帯が適切である理由についても、具体的に説明することが必要である。

なお、一般的に、バリュエーションには一方当事者の意向が反映されやすいため、両当事者を依頼者とする仲介者は、確定的なバリュエーションを実施すべきではない。仲介者は、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える必要がある。

また、仲介者が参考資料として自ら簡易に算定(簡易評価)した、概算額・暫定額としてのバリュエーションの結果を両当事者に示す場合には、以下の点を両当事者に対して明示すべきである。

〇あくまで確定的なバリュエーションを実施したものではなく、参考資料として簡易に算定したものであるということ

〇当該簡易評価の際に一方当事者の意向・意見等を考慮した場合、当該意向・意見等の内容

〇必要に応じて士業等専門家等の意見を求めることができること

(4) 譲り受け側の選定(マッチング)

マッチングについて、仲介者・FA は譲り渡し側の希望を取り入れた候補先リスト(ロングリスト)を作成するとともに、打診の順番や方法を決めることが多い。

通常はノンネーム・シート(ティーザー)で打診を行った後、関心を示した候補先をリスト(ショートリスト)にして、これら候補先との間で秘密保持契約を締結し、企業概要書等の詳細資料の開示を行う流れで手続が進む。秘密保持契約締結前の段階で、譲り渡し側に関する詳細な情報が外部に流出・漏えいしないよう注意する必要がある。

また、依頼者にはマッチングの進捗等について遅滞なく報告することが望まれる。

なお、譲り渡し側・譲り受け側のマッチングには、当初の想定以上に長期間を要することもある。そのような場合には、月額報酬制を採用している M&A 専門業者は、必要に応じて依頼者と協議し、月額報酬の適正な金額への減免等に応じることが望ましい。

(5) 交渉

中小 M&A においては、特に譲り渡し側が M&A を経験することが初めてである場合が多く、慣れない依頼者にも中小 M&A の全体像や今後の流れを可能な限り分かりやすく説明すること等により、寄り添う形で交渉をサポートすることが必要である。特に、譲り渡し側・譲り受け側の経営者同士の面談(トップ面談)は、当該中小 M&A 成約の可否をも左右する重要な面談であるため、面談を円滑に進められるよう当日の段取りを含め丁寧にサポートすることが望まれる。

仲介者は、一方当事者の利益のみを図ることなく、中立性・公平性をもって、両当事者の利益の実現を図る必要がある。

(6) 基本合意の締結

譲り渡し側の資金繰りが厳しい等、基本合意締結のための時間的な余裕がない場合等を除き、それまでの交渉の結果を確認し、また DD に進む前に譲り受け側に独占的交渉権を付与する等の趣旨から、原則として基本合意を締結することが望ましい。

なお、入札手続を行う場合等に、譲り受け側からの意向表明書に対する応諾書を譲り渡し側が提出することにより、基本合意とほぼ同様の合意を締結したものとして扱うこともある。

(7) デュー・ディリジェンス(DD)

デュー・ディリジェンス(DD)は主に譲り受け側により実施される。その際、譲り受け側は、譲り渡し側に対して大量の資料を要求することが一般的である。譲り受け側の要求に対応し、譲り受け側に不信感を与えないためにも、譲り渡し側に対し当該資料の準備を促し、サポートすることが必要である。特に、小規模企業の場合、会計帳簿や各種規程類等が整備されていない場合が多いことから、譲り受け側の意向も踏まえつつ、早い時期から今後求められることが想定される書類やデータ等の整備を促す必要がある。

なお、DD は一方当事者の意向が反映されやすいことから、両当事者を依頼者とする仲介者は DD を自ら実施すべきでなく、DD 報告書の内容に係る結論を決定すべきでない。また、仲介者は依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える必要がある。仲介者は、譲り受け側による DD の場合には、可能であれば、譲り渡し側に過大な負担が生じないよう DD の調査対象を適切な範囲内とし、DDの結果を譲り渡し側にも開示して情報共有するよう、譲り受け側に対して働き掛けることが望ましい。

(8) 最終契約の締結

最終契約の締結に当たっては、契約内容に漏れがないよう依頼者に対して再度の確認を促すことが必要である。

最終契約は、両当事者の権利義務を規定する重要なものであるため、可能な限り、中小 M&A に関する知見と実務経験を有する弁護士の関与の下で締結することが望ましい。

(9) クロージング

クロージングに向けた具体的な段取りを整えた上、当日には譲り受け側から譲渡対価が確実に入金されたことを確認することが必要である。また、不動産の所有権移転・担保抹消に伴う登記手続等を要することもあるため、クロージングにおいて登記必要書類の授受等を行うこともある。専門的な知見を要すると判断した場合には、司法書士等の士業等専門家等にも関与を求めることが必要である。

(10) クロージング後(ポスト M&A)

譲り受け側による事業の引継ぎが円滑に行われるよう、依頼者に対して丁寧に助言すること等が望まれる。

特に、譲り渡し側経営者の譲り渡す事業に対する愛着にも留意しつつ、円滑な引継ぎが可能となるよう心情面を含めてサポートすることが望まれる。

4 仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策

仲介者においては、譲り渡し側・譲り受け側間において利益相反のリスクがある(利益相反が直ちに違法となるものではない。)。例えば、譲り渡し側が譲り受け側に会社の事業を譲り渡す場合(事業譲渡)、譲り渡し側にとってはその代金(譲渡対価)が高い方が望ましい一方、譲り受け側にとっては譲渡対価が安い方が望ましく、構造的に譲り渡し側・譲り受け側の両者間において利益相反の状況が存在するといわれる。そのような状況において、仲介者が片方当事者(特に、リピーターになり得る譲り受け側)の利益を優先して取引をまとめるように動く動機があるという構造的な問題が指摘されている(なお、これに対しては、譲渡額が増加すると、これに連動して仲介者・FA の手数料も増加する形になることがあり、その場合には、逆に譲り渡し側の利益を優先して取引をまとめるように働く動機があるという指摘もある。)。

このように利益相反のリスクはあるものの、中小 M&A の実務においては、FA よりも仲介者という形態の方が多く用いられているのが現状であり、仲介者という業態を中小 M&A において不適切であると断ずることは現実的ではない。そこで、仲介者は、利益相反のリスクを最小限とするため、最低限、以下のような措置を講じることが必要である。

〇譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるということ(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨)を、両当事者に伝える。

〇バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンス(DD)といった、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しない。依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。

〇仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益相反のおそれがあるものと想定される事項について、各当事者に対し、明示的に説明を行う。また、別途、両当事者間における利益相反のおそれがある事項(一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、各当事者に対し、適時に明示的に開示する。

5 専任条項の留意点

譲り渡し側と M&A 専門業者との間における仲介契約・FA 契約の内容において、並行して他の M&A 専門業者への依頼を行うことを禁止する条項(専任条項)が設けられることがある。これは、例えば、マッチングにおいて、譲り受け側となり得る同一の候補先に対し同一の譲り渡し側について複数の M&A 専門業者が重ねて打診した場合に、当該候補先の心証を害することや、譲り渡し側に関する情報が拡散することを抑止するという観点で、それ自体は一定の合理性が認められる。

しかし、依頼者である譲り渡し側が、依頼した M&A 専門業者の助言等の内容に疑義を持った場合等に、他の M&A 専門業者やその他の支援機関にセカンド・オピニオンを求めることができないとすると、当該助言の妥当性を判断できず、ひいては中小M&A の手続についても適切な判断を行えなくなるおそれがある。

このため、仮に専任条項を設けるとしても、その対象範囲を可能な限り限定すべきである。例えば、依頼者が意見を求めたい部分を明確にした上、これを妨げるべき合理的な理由がない場合には、M&A 専門業者は当該依頼者に対し、他の支援機関に対してセカンド・オピニオンを求めることを許容すべきである。ただし、当該他の支援機関から、相手方当事者に関する情報も含む中小 M&A に関する情報が漏えいするリスクもあるため、セカンド・オピニオンにおいては、相手方当事者に関する情報の開示を禁止したり、相談先を法令上又は契約上の秘密保持義務がある者や事業引継ぎ支援センター等の公的機関に限定したりする等、情報管理に配慮する必要がある。

また、専任条項に長期間拘束されることにより、依頼者が適時に他の仲介者・FAへ依頼できなくなるおそれがあるため、専任条項を設ける場合には、仲介契約・FA 契約の契約期間を最長でも6か月~1年以内を目安として定めるべきである。加えて、例えば、依頼者が任意の時点で仲介契約・FA 契約を中途解約できることを明記する条項等も設けることが望ましい。

6 テール条項の留意点

譲り渡し側と M&A 専門業者との間における仲介契約・FA 契約の内容において、当該契約終了後一定期間(テール期間)内に、譲り渡し側が譲り受け側との間でM&Aを行った場合に、当該契約等は終了しているにもかかわらず、当該 M&A 専門業者が手数料を取得する条項(テール条項)が定められる場合がある。これは、M&A 専門業者が人的・物的コストを費やして譲り渡し側の M&A 成立直前にまで達した際に、譲り渡し側が当該 M&A 専門業者の手数料の発生を防ぐため、あえて当該 M&A 専門業者との契約を終了させ、その後に当該 M&A を実行しようとするようなケース等を念頭に置かれる規定であり、それ自体は一定の合理性が認められる。

しかしながら、テール期間が不当に長期にわたる場合には、その後の譲り渡し側の自由な経営判断を損なうおそれがある。したがって、テール期間は最長でも2年~3年以内を目安とすることが望ましい。

また、テール条項の対象となる事業者を、当該 M&A 専門業者が関与・接触した譲り受け側だけでなく、無限定とする場合には、譲り渡し側が当該 M&A 専門業者の手数料の発生(場合によってはこれに関する紛争リスク)を懸念し、新しく M&A を実行すること自体を断念せざるを得なくなってしまうおそれがある。したがって、テール条項の対象は、あくまで当該 M&A 専門業者が関与・接触し、譲り渡し側に対して紹介した譲り受け側のみに限定すべきである。

以上のとおり、テール条項は、譲り渡し側の自由な経営判断を損なわない限度で活用されるべきである。

III 金融機関

1 金融機関による中小 M&A 支援の特色

金融機関は、貸付先(与信先)である顧客の詳細な財務情報等を保有しており、顧客にとって経営相談等も行う身近な支援機関であり、特に地方においては非常に重要なネットワークを有する存在である。金融機関が中小 M&A 支援を行う場合、顧客は貸付先(与信先)であることが多く、与信業務を含む固有業務に付随して、中小M&A に関する助言等を行うことができる。また、中小 M&A 支援の際に、顧客のマッチング候補先を外部に求めるだけでなく、自らの顧客基盤の中からマッチング候補先を抽出できる点も金融機関の特色である。

しかしながら、現状では、都市銀行、地域銀行、信用金庫や信用組合といった業態や規模ごとに、また、同じ業態や規模であっても個別の金融機関ごとに、ノウハウの蓄積、人員等の体制整備の状況は全く異なっており、こういった取組に対する姿勢はまちまちである。

金融機関には、顧客の経営内容や財務内容、課題等を十分把握した上、中長期的な視野の下で中小M&A支援を行うことにより、地域の中小企業の事業継続や生産性向上、ひいては地域経済の活性化の実現に貢献することが期待され、こうしたことが金融機関自身の継続的な経営基盤を確保する上でも重要であると考えられる。

2 主な支援内容

(1) 気付きの機会の提供、「見える化」「磨き上げ」支援

金融機関において、まず顧客からの初期相談を受け付けるのは、通常、営業店である。相談内容は必ずしも事業承継に関するものに限られないが、相談中に事業承継についての必要性を見出した場合には、本部の専門部署と連携する等して、当該顧客にその点についての気付きの機会を提供することが望まれる。なお、事業承継は経営者にとってセンシティブな話題でもあるため、経営者との対話の際には、適切な伝え方やタイミングについて注意が必要である。

また、その後の取組として、中小 M&A を検討する顧客に対して、中小企業としての特性も踏まえて、必要に応じて「ローカルベンチマーク」(参考資料9「各種サポートツール一覧」参照)等も適宜活用しながら、経営状況・経営課題等の「見える化」、企業価値・事業価値を高める「磨き上げ」を支援することが望まれる。

(2) 中小 M&A 実行支援

金融機関は、前述のネットワークを生かして仲介業務・FA 業務を行う場合には、本ガイドラインで定められた行動指針等に留意しつつ、自らの専門的な知見をもとに中小企業に対して実践的な提案を行い、中小 M&A の意思決定を支援することが求められる。

特に、比較的小規模な中小 M&A において仲介業務を行う場合には、公平・中立な第三者としての立場から、当事者である中小企業に対して、中小 M&A の留意点に関する情報提供等、側面支援を行うことが望まれる。この際、最終的な意思決定は当事者が行うことを前提に、各当事者が適切に意思決定を行うことができるよう、十分な情報を提供する必要がある。

(3) 中小 M&A 実行以後に関する支援(ポスト M&A 支援)

中小 M&A においては、譲り受け側が金融機関からの融資により譲渡対価相当額の資金を調達するケースが相当数あり、そのような場合には、当該融資の可否が中小 M&A の実現にとって重要な要素となることから、金融機関は、譲り受け側のニーズや譲受後の事業の見通し等を十分踏まえて、融資を検討することが望まれる。

また、金融機関は、中小 M&A 実行後も、「経営デザインシート」等の各種のサポートツール等も適宜活用し、経営上の助言等を通じ、顧客の企業価値・事業価値の向上について支援することも考えられる。

3 中小 M&A 支援に関する留意点

(1) 他の支援機関との連携

金融機関は、前述の支援プロセスにおいて、士業等専門家や M&A 専門業者、事業引継ぎ支援センターや中小企業再生支援協議会、信用保証協会といった公的機関等とも適宜連携することが望まれる。特に、自ら中小 M&A における全ての工程をサポートすることが困難な場合には、速やかに他の支援機関につなぐことが重要である。

金融機関におけるこうした他の支援機関との連携の仕方は、金融機関の中小M&A支援体制の構築状況に応じて異なる。例えば地域銀行や信用金庫、信用組合は、地域の中小企業と事業引継ぎ支援センターをつなぐ重要な窓口の一つとなっているが、支援体制の構築状況により、以下のような具体的な取組が考えられる。

① 支援体制をこれから本格的に整備する場合

中小 M&A 及び従業員承継案件は事業引継ぎ支援センターに紹介し、顧客と事業引継ぎ支援センターとの面談の際には、当該顧客の同意を得て極力同席する。

また、当該顧客の同意を得た場合には、事業引継ぎ支援センターから情報のフィードバックを受ける。

こうしたことの積み重ねにより経験を蓄積し、中小 M&A 支援体制の本格的な整備を目指す。

② 支援体制を構築中の場合

事業引継ぎ支援センターの登録機関等に登録する。また、マッチング支援案件について事業引継ぎ支援センターのデータベース(NNDB)等を活用して対処し、将来的には、自組織内で独自に中小 M&A 及び従業員承継案件への対応が可能となる体制を目指す。

③ 支援体制を運用中の場合

中小 M&A 及び従業員承継案件のうち、ビジネスベースで対応することが困難なもの等については、事業引継ぎ支援センター等と連携して対応していく。

(2) 情報管理の徹底

金融機関は、中小企業の財務情報等、多くの機微な情報を保有しているからこそ、情報の管理にはより一層の注意を図る必要があり、銀行法、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針等(以下「法令・指針等」という。)に即し、情報管理を徹底する必要がある。具体的には、以下のとおりである。

① 対外的な情報管理の徹底

金融機関は法令・指針等による秘密保持義務を負っており、外部との関係で厳格な情報管理を行っている(ファイア・ウォール)。一方、特に地方の金融機関においては、顧客同士が顔見知りということも多く、仮にノンネームで情報を開示したとしても、譲り渡し側・譲り受け側が相互に相手を特定できてしまう可能性が高い。譲り渡し側・譲り受け側それぞれが特定されないように開示情報の内容をよく吟味するとともに、可能であれば、早急に秘密保持契約を締結の上、特に譲り渡し側に関する情報が外部に流出・漏えいしないよう、譲り受け側に注意を促す等、情報管理を徹底することが求められる。

② 対内的な情報管理の徹底

金融機関においては、顧客の利益の保護のための体制(いわゆる利益相反管理態勢)として、内部の融資部門と仲介業務・FA 業務等を行う部門との間で情報隔壁(チャイニーズ・ウォール)を設けることが望ましい。金融機関によっては人的資源に限りがあり得るものの、融資先である譲り渡し側の中小 M&A について仲介業務・FA業務を行おうとする場合には、当該金融機関が債権者として構造的に譲り渡し側に対し優越的な地位に立ちやすい点に配慮し、両部門間での中小 M&A に関する情報共有の範囲・方法等も含め、法令・指針等に即し、適正な利益相反管理態勢の整備を行うことが求められる。

(3) 譲り渡し側が事業再生局面にある場合の中小 M&A 支援の在り方

金融機関は、譲り渡しを希望する融資先の顧客が返済条件緩和・債務減免が行われている等、事業再生局面にある場合には、可能な限り有利な条件での債権回収を行うべく、早期の中小 M&A の実行を促す動機が構造的に強くなる傾向にある。

このような局面において中小 M&A 支援を行う場合にも、譲り渡し側の意向を汲みながら、譲り渡し側の真意に即した中小 M&A 支援を行うことが求められる(なお、仲介者・FA として中小 M&A 支援を行う場合には、その前提として、このような局面において仲介者・FA となることについて、利益相反管理態勢上での整理が求められる。)。

(4) 経営者保証に関するガイドラインの遵守

金融機関は、中小 M&A に伴う経営者保証の解除等に関し、「経営者保証に関するガイドライン」及び「経営者保証に関するガイドラインの特則」に留意されたい。

IV 商工団体

1 商工団体による中小 M&A 支援の特色

商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、商店街振興組合連合会等といった商工団体は、地域に根差し、地域における商工業の振興に向けた取組を行う組織であり、地域の社会的・文化的な側面においても大きな役割を果たしている。その性質から、地域の中小企業における最も身近な相談窓口であり、かつ、中小企業に向けられた公的な支援制度の詳細を最も熟知した支援機関の1つである。

商工団体の経営指導員等の職員は、中小企業の経営者から法務や税務といった技術的な事項というよりは、経営に関する一般的な相談を受けることが多い。その過程において、事業承継についてのニーズを含む当該中小企業の事業の状況や当該中小企業の地域における位置付け等を認識できる立場にいる。

2 主な支援内容

(1) 気付きの機会の提供

商工団体は、会員向けの研修や、日々の巡回による経営指導等を通じて、中小企業との接点を絶やさずに持ち続けることにより、当該中小企業の課題を認識する必要がある。特に、60歳を超える経営者に対しては、今後の事業計画の策定や事業承継に係るニーズ調査等を通じて、事業承継について検討する「気付きの機会」を積極的に提供することが期待される。

(2) 適切な支援機関への橋渡し

気付きの機会の提供に伴い、後継者不在に起因する事業の譲り渡しニーズが顕在化した場合には、具体的な中小 M&A の手続を検討することになるため、適切な支援機関への橋渡しを行うことが望ましい。事業引継ぎ支援センターをはじめ、中小M&A 支援に精通している士業等専門家や、M&A 専門業者とのネットワークを構築することが期待される。

なお、商工団体が他の支援機関に中小企業の橋渡しをしたとしても、その後、譲り渡し側の中小企業の経営状態が悪化してしまうことにより、中小 M&A 自体が頓挫してしまう、あるいは当初の希望通りの条件での成約が困難となってしまうこともありうるため、引き続き当該中小企業に対し、経営指導等を通じ接点を持ち続けることが求められる。また、適宜、当該中小企業の求めに応じて、他の支援機関とも連携しながら「見える化」「磨き上げ」等の伴走支援を行うことも期待される。

3 中小 M&A 支援に関する留意点

(1) 情報の取扱いの注意点

商工団体は、地域に根差している性質上、会員である地域内の中小企業との間で豊富なネットワークを有しており、地域内の中小企業同士のマッチング支援等を行うことがある。その反面、会員同士が顔見知りである可能性も高く、譲り渡し側・譲り受け側を特定しやすく、情報が素早く伝達されてしまうおそれもあるため、譲り渡し側・譲り受け側の情報の取扱いについては注意が必要である。

(2) 他の支援機関との連携

商工団体は、地域の中小企業の相談窓口として特に重要であるため、幅広い相談内容に対応し適切な支援機関へとつなげるよう、日頃から地域の事業引継ぎ支援センターや士業等専門家といった他の支援機関の行う支援を理解し、必要に応じこれら支援機関との意思疎通を図ることが望まれる。

V 士業等専門家

中小 M&A に関与することの多い士業等専門家は、以下のとおりであり、中小 M&Aにおいて、主に以下のような役割を果たすことが期待される。士業等専門家は、それぞれ専門分野と職責が異なるため、それぞれが適切に当該分野に係る職責を果たしつつ、必要に応じ、各士業等専門家間で連携することが期待される。

1 公認会計士

(1) 公認会計士による中小 M&A 支援の特色

「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする」(公認会計士法第1条)。これを踏まえて、財務・会計の専門家である公認会計士が、特に譲り渡し側の支援機関として中小 M&A において果たす役割は、財務書類その他財務情報(事業計画やバリュエーションのための基礎情報)の信頼性の向上、監査業務や上場支援業務の経験を生かした組織的な社内体制構築への助言や支援、譲渡スキームの検討・策定等、中小 M&A 全般に関する支援である。これに加え、税理士登録することで、税理士として顧問業務を同時に提供し日頃から財務書類の作成を支援している場合には、経営者の経営全般に関する身近な相談相手としての役割が期待される。

また、依頼を受けた場合には、譲り渡し側についての財務デュー・ディリジェンス

(財務 DD)や譲渡対価の基礎となるバリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)を業務として提供する。

(2) 主な支援内容

① 適正な財務書類の作成支援

公認会計士は、適正な財務書類の作成支援を期待されている。特に中小 M&A を進める中で譲り受け側に提出された譲り渡し側の財務書類が一般に公正妥当と認められる会計基準、「中小企業の会計に関する指針(中小会計指針)」や「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」等に基づいて作成されていない場合、譲り受け側より信頼できる財務書類ではないとみなされ、譲渡額を含め不利な条件での交渉となる場合や交渉自体が不成立となる場合もある。更には、中小 M&A のクロージングにおいて統合作業に支障が生じることもあるため、事前に適正な財務書類を作成するよう譲り渡し側経営者を支援することが望まれる。

② プレ M&A 支援

公認会計士に期待されるプレ M&A 支援として以下の対応が考えられる。なお、トラブルを事前に防止するためには、「中小企業施策調査会研究報告第2号 公認会計士による中小企業の事業承継支援-従業員承継の支援手法について」(平成30年1月15日、日本公認会計士協会)が実務の上でも参考となるため、必要に応じて参照されたい。

ア コーポレート・ガバナンスの構築支援

中小企業においては、会社法で求められている株主名簿や株主総会決議・取締役会決議の議事録等の整備が不十分な者が少なくない。

こういった点が整備されコーポレート・ガバナンスが構築されていることにより、譲り受け側が円滑に M&A を行えるとの判断に資することもあるため、今後の中小 M&A に備えてその整備を支援することが望まれる。

イ 株式・事業用資産等の整理・集約の支援

中小 M&A においては、名義株や所在不明株主の存在、未計上の退職給付債務や未払残業代等の簿外債務等が問題となるケースが多く、依頼者にこのような問題がある場合には、必要に応じて弁護士等と連携し、整理をしておくことが望ましい。

また、役員社宅や役員貸付金、役員保険といった経営者等と会社との取引、事業用資産の所有関係等について明確な区分・分離を進める場合には、「中小企業施策調査会研究報告第1号 『経営者保証に関するガイドライン』における公認会計士等が実施する合意された手続に関する手続等及び関連する書面の文例」(平成29年12月1日、日本公認会計士協会)を参照されたい。

ウ 中小企業における適切な内部統制の構築・運営の支援

中小企業においても、社内での円滑な情報共有等を可能とする適切な内部統制の構築・運営は、適正な財務書類の作成の基礎となるため、財務・会計の専門家である公認会計士はこれを支援することが望まれる。

例えば、営業担当・会計担当間における取引先の与信情報の共有(適正な売上債権の管理により、会計上、適正な貸倒引当金の計上を可能とする。)や、倉庫担当・購買販売担当間における棚卸資産の情報の共有(棚卸資産の価額・数量の時の把握を可能とする。)を可能とする社内体制の整備等に向けた助言等が考えられる。

エ 中小 M&A に伴う経営者保証解除の円滑な実現に向けた支援

公認会計士は、中小 M&A に伴う経営者保証解除の円滑な実現に向け、「経営者保証に関するガイドライン」及び「経営者保証に関するガイドラインの特則」に即した対応について、必要に応じて助言することが望ましい。

③ バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)

公認会計士は財務・会計の専門家としてバリュエーションを実施するが、実施に際しては、基本的に以下の手法を用いて、「経営研究調査会研究報告第32号『企業価値評価ガイドライン』の改正について」(平成25年7月22日、日本公認会計士協会)に係る改正後の企業価値評価ガイドライン(平成25年7月3日、日本公認会計士協会)を踏まえ、事案に応じて適切に実施することが望まれる(なお、複数の手法により算定した結果をそれぞれ比較検討するケースもある。)。

(ア) コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)

主に評価対象会社の貸借対照表の純資産に着目して企業価値・事業価値を評価する方法である。代表的な手法として、「(修正)簿価純資産法」、「時価純資産法」がある。

(イ) マーケットアプローチ

上場している同業他社や類似取引事例等から企業価値・事業価値を推定計算する方法である。代表的な手法として、「市場株価法(評価対象会社の株式の市場価格等を基準に評価を行う方法)」と、「マルチプル法(類似する上場企業の株価や、類似する取引における成立価格をベースに一定の調整をした上で評価を行う方法)」がある。

(ウ )インカムアプローチ

将来期待されるキャッシュフローや利益から企業価値・事業価値を算定する手法である。代表的な手法として、「DCF 法(期待されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法)」や「収益還元法(期待される収益を現在価値に割り引いて評価する方法)」がある。

【三つの評価アプローチの一般的な特徴】

・客観性           コスト◎  マーケット◎ インカム△

・市場での取引環境の反映   コスト△  マーケット◎  インカム○

・将来の収益獲得能力の反映  コスト△  マーケット○ インカム◎

・固有の性質の反映      コスト○  マーケット△ インカム◎

※◎:優れている ○:やや優れている △:問題となるケースもある

※出典:日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」(27ページ)を一部加工

④ 財務 DD

公認会計士の主要な業務に財務デュー・ディリジェンス(財務 DD)がある。

財務 DD は、M&A に際して譲り渡し側の事業実態を調査し、当該調査対象が内包するリスク要因を把握することを目的としている。具体的には、譲り渡し側の過去の実績の把握や、現在の財務状態を調査して財務リスクを特定すること、また、将来の事業計画の基礎となる情報を入手することを目的としている。

財務 DD の調査範囲や調査手法は、主に依頼者となる譲り受け側がどのような譲渡スキームを前提に、どの程度のリスクを容認できるのか、また財務 DD にどの程度の時間やコストを掛けられるのかによって異なる(例えば、株式譲渡スキームを前提とする場合には、簿外債務・偶発債務も含めた全般的な調査を要することが多い。)。

このため、依頼者(主に譲り受け側)と作業を実施する公認会計士は事前に調査範囲と調査手法について合意した上、決定することになる(合意された手続)。この場合の留意点等については、「専門業務実務指針4400 合意された手続業務に関する実務指針」(平成28年4月27日、日本公認会計士協会)を参照されたい。

一般的に財務 DD は、譲渡対価や譲渡スキーム等の基本的な譲渡条件を合意してから(主に基本合意締結後に)実施される。当該財務 DD の結果は、譲渡対価や譲渡スキーム等を修正したり、中小 M&A そのものを取りやめたりするといった判断の際に、重要な判断要素となり得る(例えば、財務 DD の結果、多大な簿外債務・偶発債務が発見された場合には、当初予定していた株式譲渡スキームから、事業譲渡スキームへと変更を余儀なくされることもある。)。また、財務 DD の結果は、単に譲渡条件の調整に利用されるだけでなく、把握されたリスク要因や問題点がクロージング後の統合作業(PMI)時に有用な情報としても活用される。

このように、財務 DD は中小 M&A の遂行に影響を与えるとともに、調査範囲や調査手法によって必要な時間やコストも異なることから、公認会計士が財務 DD を実施するに当たっては、慎重かつ効率的な調査を心掛けることが望まれる。なお、中小 M&A では少ないものの、事前に譲り渡し側が財務上の問題点や必要資料を整理する観点から財務 DD を実施するケースもある(セラーズ DD)。

⑤ 債務超過企業に対する中小 M&A 支援

譲り渡し側である債務超過企業が債務整理手続を要する場合に、債権者への弁済額・弁済時期等を含む弁済計画(再生計画)を策定する必要上、実態貸借対照表・清算貸借対照表等を作成することがある。また、公認会計士は、民事再生手続における財産評定(民事再生法第124条第1項参照)等、法定の手続を担うこともある。

債務超過企業の中小 M&A 支援に伴う債務整理手続に携わる公認会計士は、時機を逸しないよう早期の支援が重要であることから、弁護士等と連携しながら、信頼性のある財務書類等の作成により手続の円滑な進行に貢献することが期待される。この点については、「中小企業施策調査会研究報告第3号 公認会計士による中小企業の事業承継支援-事業継続・廃業に対する早期判断とその支援手法について」(平成30年1月15日、日本公認会計士協会)を参照されたい。

なお、債務超過企業においては、経営者保証に係る保証債務の整理が問題となる場合もある。前述の「経営者保証に関するガイドライン」に即した対応について助言することが望ましい。この点については、「中小企業施策調査会研究報告第4号 『保証人の資力に関する情報』における公認会計士による実務」(平成30年12月25日、日本公認会計士協会)を参照されたい。

⑥ 中小 M&A 実行以後に関する支援(ポスト M&A 支援)

中小 M&A のクロージング後においては、統合後の円滑な事業遂行が可能となるよう、公認会計士は、統合作業の一環として譲渡された企業又は事業の体制整備や付加価値源泉を基点としたシナジーの検証及びこれに基づくグループ全体の経営計画策定を支援することが望ましい(この際、「経営デザインシート」等の各種のサポートツール等の適宜の活用が考えられる。)。また、必要に応じ、グループ・ガバナンスや内部統制の構築、原価計算制度の見直し、IT 統合等に関する支援も検討されたい。

(3) 他の支援機関との連携

中小 M&A に関わる業務は専門性を有し、かつ、多岐にわたる。必要に応じて、事業引継ぎ支援センターや、中小企業再生支援協議会等の公的機関、中小 M&A を専門とする士業等専門家や M&A 専門業者といった他の支援機関と連携して業務を進める必要がある。

2 税理士

(1) 税理士による中小 M&A 支援の特色

「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命」とし(税理士法第1条)、他人の求めに応じ、租税に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談を行うことを業とする(同法第2条第1項)。また、同業務に「付随」する業務として「財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務」を行うことができる(同条第2項)。

通常、デュー・ディリジェンス(DD)やバリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)等の中小 M&A に関わる業務は、直接的にはこれら税理士の業務に含まれていないことから、中小 M&A に積極的に携わる税理士は限られ、税理士が顧問先の M&Aについて関与しきれていないケースもあるものと思われる。

他方、M&A は事業の拡大又は事業承継の選択肢として、昨今、中小企業の経営者にも広く認知され、税理士が顧問先等から相談されるケースも増えているものと思われる。

税理士は中小企業の経営者にとって身近な相談役であり、顧問として中小企業の実情を把握し、中小企業の税務・会計にも精通していること等から、顧問先に対して、税務・会計に関する支援に限らず、経営支援、金融支援といった多面的な支援を行い得る立場におり、中小 M&A においても積極的に支援することが期待される。

税理士は顧問として継続的な役務提供を行うケースが多数であるため、本ガイドラインでは主に中小企業の顧問税理士を念頭に記載する。

なお、中小 M&A に関連する業務が通常の顧問業務の範囲外となる場合には、事前に顧問先にその旨を説明し、業務内容や報酬等について了承を得ることも必要である。中小 M&A に関連する業務は、通常の顧問業務とは別途の専門性を要することが多く、別途の報酬の請求が相当であるケースも多い。

(2) 主な支援内容

① 適正な税務申告書等の作成等

ア 助言義務

中小 M&A を進める中で対象企業の粉飾決算が明らかとなり、中小 M&A が困難となる場合がある。税理士は、顧問業務の中で期末在庫の操作や売上の水増し等、顧問先の不正会計等を確認した場合には適切な助言や指導をして、顧問先が法令の不知や税務行政に関する誤解等によって生じる損害を被ることのないようにすべき注意義務(善管注意義務)がある。

この点、税理士法第41条の3では、「税理士は、税理士業務を行うに当たって、委嘱者が不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れている事実、不正に国税若しくは地方税の還付を受けている事実又は国税若しくは地方税の計算の基礎となるべき事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、若しくは仮装している事実があることを知ったときは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない」とする助言義務を明記している。

なお、税理士が助言したにもかかわらず、委嘱者が助言に従わなかった場合は、助言義務違反には当たらないが、そのままその委嘱者について税理士業務を継続して行う場合には、不真正税務書類作成禁止違反等(同法第45条)に該当することになるおそれがあるため留意する必要がある。

イ コーポレート・ガバナンスの構築支援

中小企業においては、会社法で求められている株主名簿や株主総会・取締役会の議事録等の整備が不十分な場合が少なくない。

こういった点が整備され、コーポレート・ガバナンスが構築されていることにより、譲り受け側が円滑に M&A を行えるとの判断に資することもあるため、税理士は顧問先に対し今後の中小 M&A に備えてその整備を支援することが望まれる。

ウ 株式・事業用資産等の整理・集約の支援

中小 M&A においては、名義株や所在不明株主の存在、役員社宅や役員貸付金、役員保険といった同族関係者と会社との取引、事業用資産の所有関係等、未計上の退職給付債務や未払残業代等の簿外債務等が問題となるケースが多く、顧問先にこのような問題がある場合には、予め弁護士等と連携し、整理をしておくことが望ましい

② 中小 M&A に伴う経営者保証解除の円滑な実現に向けた支援

税理士は、中小 M&A に伴う経営者保証解除の円滑な実現に向け、「経営者保証に関するガイドライン」及び「経営者保証に関するガイドラインの特則」に即した対応について、必要に応じて助言することが望ましい。

③ 中小 M&A の課税関係等を踏まえた適切な助言及び提案

中小 M&A は、一般的に株式譲渡又は事業譲渡で行われるケースが多く、また、通常、代表者交代が行われるタイミングであることから、代表者への役員退職慰労金の支払と組み合わせて行うこともある。いずれの場合も各々にメリット・デメリットがあり、税理士は顧問先から M&A について相談を受けた場合には、これらメリット・デメリットを総合的に勘案し、適切な助言やスキームの提案等が期待される。

なお、中小 M&A により株主である経営者個人に所得が生じた場合には、所得税・住民税のほか、(会社の社会保険に加入していないときは)国民健康保険料又は後期高齢者医療保険料にも影響があるため留意する必要がある。

また、一般的には、株式譲渡契約書等は印紙税の非課税文書であるが、当該株式譲渡契約書等に代金受領の記載がある場合には、課税文書(印紙税法別表第1第17号の1文書)に該当し、収入印紙の貼り付けが必要となるため留意する必要がある。

ア 株式譲渡

一般的に「株式譲渡」は、許認可等の再取得や登記手続等が不要で手続が簡便であること、株式取得後合併等をした場合において一定の要件を満たしたときは対象企業の欠損金を引き継ぐことができること等のメリットがある。

他方、デメリットとしては、未払残業代等の簿外債務や賠償義務、不要な余剰資産の引継ぎリスク等が生じ得る。

なお、株主である経営者個人の税金については、株式譲渡の場合、譲渡益に対する分離課税(税率20.315%)で課税関係が終了する。

イ 事業譲渡

「事業譲渡」は、取得する資産・負債の取捨選択により株式譲渡で挙げた簿外債務等のリスクを限定することができること、所在不明株主の存在や株式の分散等により株式譲渡の手法で M&A を行うことは困難でも株主総会特別決議の可決承認が可能な場合には有効な手段であること、資産調整勘定(のれん)が生じた場合には損金算入することができること等のメリットがある。

他方、デメリットとしては、資産等の個別の移転手続が必要となること、不動産を取得する場合には不動産取得税・登録免許税が生じること、また、許認可等についても原則、取り直す必要があること(なお、登録免許税・不動産取得税の特例、許認可承継の特例は後述する。)等が生じ得る。

また、事業譲渡の場合、減価償却資産等は消費税の課税売上に該当するため、課税事業者である場合には消費税等の課税関係についても留意が必要である。

なお、株主である経営者個人の税金については、事業譲渡の場合、譲渡対価は人に帰属するため、益金に対し法人税等の課税が生じる。その後、株主である経営者に配当又は役員報酬等で還流をする場合には、総合課税(税率15.105%~55.945%)の対象となることから、分離課税となる役員退職慰労金の支給と併せて検討することもあり得る。

④ 中小企業等経営強化法における登録免許税・不動産取得税の特例、許認可承継の特例

中小企業等経営強化法の経営力向上計画(以下「認定計画」という。)の認定を受けた事業者は、認定計画実行のための支援措置(税制措置、金融支援、法的支援)を受けることができる。具体的には、税制措置として、認定計画に基づき取得した一定の設備に係る法人税等の特例、認定計画に基づき行った事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例があり、金融支援として、日本政策金融公庫の低利融資、民間金融機関の融資に対する信用保証協会による信用保証、債務保証等の資金調達に関する支援を受けることができる。また、法的支援として、各種業法上の許認可の承継の特例、組合の発起人数に関する特例、事業譲渡の際の免責的債務引受に関する特例措置を受けることができる。

なお、中小企業等経営強化法における支援措置のうち、法人税等の特例及び登録免許税・不動産取得税の特例については適用期限があるため、留意されたい。

⑤ 税務 DD

税務デュー・ディリジェンス(税務 DD)とは、対象会社の企業価値に影響する潜在的な税務リスク(例えば、過去の申告内容の誤りによる追徴課税等)の把握等の観点から必要に応じて行うものであり、実行に当たっては、依頼者と協議の上、調査対象範囲・対象年度・手法を決定することとなる。

一般的に、税務 DD において実施される調査手続は、以下のとおりである。

・対象会社の経営陣、顧問税理士等に対するインタビュー

・過去の税務申告書のレビュー

・過去の税務調査・税務訴訟等の把握

・過去の組織再編、資本取引等の税務処理の把握

・税務上の欠損金の使用可能性、各種税制の適用状況の把握 等

顧問税理士は、顧問先が対象となる法務・財務・税務等のデュー・ディリジェンス(DD)については、必要となる資料の提供、過去の会計処理や税務処理に対するインタビュー等について積極的に協力することが望ましい。

⑥ バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)

バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)の方法は、大きくコストアプローチ(ネットアセットアプローチ)(時価純資産法等)、マーケットアプローチ(類似会社比較法(マルチプル法)等)、インカムアプローチ(DCF 法等)に分類されるが、中小 M&A の場合、時価純資産法で算定されるケースが多い。「相続税財産評価に関する基本通達(財産評価基本通達)」による取引相場のない株式の評価(純資産価額方式)は、時価純資産法に類似しており、税理士の業務知識でも対応可能であると考えられる。

このため、税理士は、顧問先から譲渡対価の価額の妥当性について相談を受けた場合には、適切な助言等をすることが期待される。

しかしながら、企業価値評価・事業価値評価については前述のとおり様々な方法があり、判断が困難な場合も想定されることから、この場合には、M&A を専門とする公認会計士等の専門家や公的機関と連携することが必要である。

⑦ マッチングサイト等の活用

税理士が仲介者又は FA として主導する中小 M&A においては、民間の M&A プラットフォーマーが運用している M&A プラットフォームや日本税理士会連合会が運用している顧問税理士が関与先企業の窓口となって引継ぎ先を探すためのマッチングサイト「担い手探しナビ」等を積極的に活用することも期待される。

⑧ 債務超過企業に対する中小 M&A 支援

事業の価値は最終的には譲り受け側の評価により決まるものであり、一概に債務超過だからといって廃業しか選択肢がないとは限らない。また、簿価純資産上は債務超過でも時価純資産(修正簿価純資産)上は資産超過となる場合もある。顧問税理士は、債務超過の顧問先から廃業の相談等を受けた場合には、中小 M&A の可能性についても検討することが期待される。

この際、譲り受け側に事業の価値を見出してもらうためには、譲り受け側に対する譲り渡し側の事業についての詳細な情報開示が必要であり、顧問税理士は積極的に協力する必要がある。

また、債務整理手続を要する場合には、債権者との間で債務減免等の交渉が必要となる場合があり、この場合には中小企業再生支援協議会や事業再生を専門とする弁護士等の専門家と連携することも重要である。なお、債務超過企業においては、経営者保証に係る保証債務の整理が問題となる場合もある。税理士は「経営者保証に関するガイドライン」に即した対応について、助言することが望ましい。

(3) 他の支援機関との連携

中小 M&A に関わる業務は専門性を有し、かつ、多岐にわたる。そのため、税理士は、特に顧問先の中小 M&A 案件について一人で抱え込まず、必要に応じて、事業引継ぎ支援センターや、中小企業再生支援協議会等の公的機関、中小M&A を専門とする弁護士等の士業等専門家といった、他の支援機関と連携する等、顧問先に親身に寄り添う姿勢が期待される。

例えば、中小 M&A 時において交わされる株式譲渡契約書には、一般的に表明保証条項(「用語集」参照)が記載されることが多いが、特に中小 M&A の場合、経営者が表明保証の内容を正しく理解せず、事実に反することを表明保証することも想定される。顧問税理士は、弁護士等の専門家と連携し、顧問先にとって不利益な条項等がないか確認をし、適切な助言等をすることが期待される。

3 中小企業診断士

(1) 中小企業診断士による中小 M&A 支援の特色

中小企業診断士は、中小企業支援法第11条に定める「中小企業の経営診断の業務に従事する者」として経済産業大臣より登録された者であり、中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行う専門家である。中小企業診断士は、中小企業の成長戦略策定やその実行のためのアドバイスを主な業務とするが、中小企業と行政・金融機関等をつなぐパイプ役を担うほか、専門的知識を活用しての中小企業施策の適切な活用支援、更には経営者に寄り添った精神面でのサポート等、幅広い活動が求められる。

中小 M&A における役割としては、経営者のよき相談相手となるとともに、「磨き上げ」を通じた企業価値・事業価値の向上、ビジネス(事業)DD、ポスト M&A 支援等、幅広い工程で積極的に支援することが期待される。

なお、中小企業診断士は、M&A 専門業者、金融機関、商工団体に所属する者にも多く、他の士業等専門家の資格を兼ねる者も多い。

(2) 主な支援内容

① 気付きの機会の提供

中小企業診断士は、様々な立場で中小企業と接する機会があるが、各種の経営相談に対応する中で必要と考えられる者に対しては、事業計画や事業承継計画の策定の働き掛け等を通じて事業承継について検討する「気付きの機会」を積極的に提供するとともに、その後に向けた中小企業の取組について広く支援することが望まれる。

② 中小 M&A 前後の企業価値・事業価値向上への貢献

中小企業診断士は、中小企業の経営全般に関する知見を有しており、中小 M&Aの準備段階に入る前から企業・事業の価値を向上させるべく「見える化」「磨き上げ」への支援を行うことが考えられる。「見える化」を進める際には、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うためのツールである「ローカルベンチマーク」を適宜活用すると、他の支援機関(特に金融機関)との間における共通認識につながり有用であると思われる。

また、中小 M&A のクロージング後(ポスト M&A)の段階において、事業の運営面から PMI を支援することが考えられる。これに関連して、事業の将来像を構想し、それに向けた戦略を策定するためのツールである「経営デザインシート」は、ポスト M&A の生産性向上を目指す支援に適宜活用されることが期待される。中小企業の場合、事業計画を作成していない場合が多く、事業の現状把握から将来構想の明確化までの一連の検討がなされていないことが多い。「経営デザインシート」を適宜活用することにより、「これまで」から「これから」へつなぐための課題が整理され、事業性評価とともに、ポスト M&A を見据えた支援に役立つと思われる。

このように、各種ツールを適宜活用しながら、中小 M&A の前後を通じた支援により、中小企業診断士は、中小 M&A を通じた企業価値・事業価値向上に貢献することが考えられる。

③ 企業概要書の作成等の支援

中小企業診断士は、中小 M&A の際、顧客である譲り渡し側の事業の全体像を把握し、企業概要書の作成を支援することが期待される。企業概要書は、譲り受け側に対し、譲り渡し側の具体的な情報を伝えることで、その後の中小 M&A の手続の円滑な進行に資するものであることから、中小企業診断士は譲り渡し側経営者と相談の上、正確な企業概要書の作成に留意する必要がある。

④ 中小 M&A に伴う経営者保証解除の円滑な実現に向けた支援

中小企業診断士は、中小 M&A に伴う経営者保証解除の円滑な実現に向け、「経営者保証に関するガイドライン」及び「経営者保証に関するガイドラインの特則」に即した対応について、必要に応じて助言することが望ましい

⑤ ビジネス(事業)DD

中小企業診断士の業務にビジネス(事業)デュー・ディリジェンス(ビジネス DD)がある。

ビジネス DD は、M&A に際して譲り渡し側の商流や収益構造といったビジネスモデルを整理し、外部環境・内部環境からマーケット(市場)における競争力を分析し、事業の将来性や譲り受け側との統合によるシナジーの検討等を行うことを目的としている。

ビジネス DD の十分な調査のためには一定のビジネス・事業に関する知見やノウハウを要する。中小企業の経営全般に関する知見を有し、専門的な分析ツールを身につけている中小企業診断士は、ビジネス DD に取り組みやすい立場にあるため、積極的にビジネス DD に関与し、円滑な中小 M&A の促進を支援することが期待される。

⑥ 債務超過企業に対する中小 M&A 支援

債務超過企業において債務整理手続を要する場合には、債権者との間で債務減免等の交渉が必要となる場合がある。この場合には、中小企業診断士は中小企業再生支援協議会や事業再生を専門とする弁護士等の専門家と連携することも重要である。

なお、債務超過企業においては、経営者保証に係る保証債務の整理も問題となるため、中小企業診断士は「経営者保証に関するガイドライン」に即した対応について、助言することが望ましい。

(3) 他の支援機関との連携

中小企業診断士は、一般的に財務・税務・法務等について、それぞれの分野を専門とする士業に係る資格を有する者と同等の専門知識を有するものではないため、具体的な課題に応じて、公認会計士・税理士・弁護士等と連携する必要がある。また、必要に応じて事業引継ぎ支援センター等の公的機関とも連携することが望ましい。

4 弁護士

(1) 弁護士による中小 M&A 支援の特色

「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」とし(弁護士法第1条第1項)、この「使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない」(同条第2項)。これを前提に、「弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする」(同法第3条第1項)。

中小 M&A においては、譲り渡し側の株主や経営者の親族、役員・従業員、取引先(仕入先・得意先等)、金融機関等、様々な利害関係者に関して、紛争予防等の観点から利害関係の調整に配慮する必要があり、弁護士が代理人として利害関係者との交渉を行うことがある。また、中小 M&A においては、法的な観点での検討が不可欠であり、弁護士が法務の専門家として、株式譲渡や事業譲渡といった手法の選択、譲渡スキームの検討・策定等、全体的な手続進行のコーディネートを行うことがある。

一方、弁護士は、依頼を受けた場合には、個別の対応事項(例えば、契約書等の作成・リーガルチェックや法務 DD のほか、中小 M&A に伴う個別の法的な課題やトラブルへの対応等)についてのスポット対応を行うこともある。なお、譲り渡し側の顧問弁護士等の場合には、中小 M&A の意思決定前の段階より継続的にコーポレート・ガバナンス等を意識した助言・対応等を行うこともある。

このように、弁護士は法務の専門家として、円滑な中小 M&A の実現に向けて、多面的な支援を行い得る立場にある。

(2) 主な支援内容

① 株式・事業用資産等の整理・集約の支援

支援機関は、中小 M&A の事前準備として、株式・事業用資産等の整理・集約の支援を行うことが望まれるが、特に以下の場合には、弁護士が関与・支援することが望まれる。

ア 名義株主・所在不明株主への対応

平成2年(1990年)の商法改正前は、株式会社設立に当たり、7人以上の発起人が必要であり、かつ各発起人が1株以上の株式を引き受ける必要があったため、他人の承諾を得て、他人名義を用いて株式の引受け・取得がなされるケースが多く存在した(いわゆる名義株)。当該他人(名義株主)と実質的な株主の間で、株主たる地位や配当等の帰属を争う紛争が生じないよう、実質的な株主への株主名簿の名義書換等を進めておく必要がある。その際には、例えば事前に名義株主と実質的な株主の間で株主たる地位等について確認する合意を締結しておく等の方策が考えられる。

また、所在不明株主が生じている場合には、5年以上継続して会社からの通知が到達しない株主が保有する株式について、会社法の定める手続による競売・売却・自社株買い(会社法第197条)を行うこと等により対応する必要がある。

イ 株式の整理・集約の支援(「ア 名義株主・所在不明株主への対応」を除く。)中小 M&A の際には、一定の株式を譲り渡し側において整理・集約しておく必要がある。例えば、譲り渡し側である会社の全株式の株式譲渡を行う場合には、全株主から株式を買い取っておくことや株式譲渡についての委任状を取得しておくことが必要となる。その際、高齢の株主が健康なうちに早急に株式を買い集めるケースや、利益計上できていない債務超過企業の株式を備忘価格で買い集めるケースも見られる。

譲り渡し側である会社が全事業の事業譲渡を行う場合には、出席株主の議決権の3分の2以上による株主総会特別決議(会社法第309条第2項第11号、第467条第1項第1号)が必要となることがある。その場合には、確実な議決権行使のため総議決権の3分の2以上の株式の買取り又は議決権行使についての委任状の取得が望まれる。

弁護士は、既存株主からの株式買取りや委任状の取得が必要な場合には、これを円滑に実現できるよう、既存株主と協議・交渉することが必要となる。

なお、特別支配株主による株式等売渡請求(会社法第179条以下)や株式併合手

続(会社法第180条)を利用する等して株式を大株主に集約する方法(いわゆるスクイーズ・アウト)もある。

ウ 事業用資産等の整理・集約の支援

譲り渡し側が会社又は個人か、譲渡の手法が株式譲渡又は事業譲渡等かにかかわらず、譲り渡し側の重要な事業用資産等については、譲り受け側による利用が可能となるように確認・整理しておく必要がある。特に、中小企業においては、会社と経営者の資産が分離されていないことがあるため、両者の資産を明確に切り分けて整理しておくことも重要である。

なお、以上の支援については、依頼者である中小企業やその経営者だけでは分からない情報又は漏れている情報も多くあり得るため、依頼者の顧問税理士等にも確認しながら作業を進めることが適切なケースが多い。

② 契約書等の作成・リーガルチェック

弁護士の主要な業務に契約書等の作成・リーガルチェックがある。

中小 M&A においては、譲り渡し側(又はその経営者等)・譲り受け側が、基本合意書、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書等、何らかの書面を取り交わして、契約等を締結するケースがほとんどである。なお、必要な株主総会決議・取締役会決議の議事録等も準備する必要がある。

こういった契約等に当たっては、契約書等の書面の内容が当事者の合意した事項を正確に反映しているか確認が必要であり、場合によっては内容の確定について交渉を要する。合意内容によっては、契約書等の記載内容と合致しているか中小企業やその経営者が自ら判断することが難しいこともあるため、法務の専門家である弁護士が契約書等の作成・リーガルチェックを支援することが望ましい。

③ 中小 M&A に伴う経営者保証解除の円滑な実現に向けた支援

弁護士は、中小 M&A に伴う経営者保証解除の円滑な実現に向け、「経営者保証に関するガイドライン」及び「経営者保証に関するガイドラインの特則」に即した対応について、必要に応じて助言のほか、金融機関との協議・交渉を行うことが望ましい。

④ 法務 DD

法務デュー・ディリジェンス(法務 DD)とは、対象企業の抱える法的なリスク等について、主に譲り受け側が必要に応じて行う調査であり、実施に当たっては、弁護士が依頼者と協議の上、調査対象範囲を決定することとなる。特に、株式譲渡の手法を選択する場合には、譲り渡し側の抱える法的なリスクをそのまま引き継ぎやすいため、全般的かつ網羅的な法務 DD を行うことが多い。その場合には、一般的に、株式・会社組織、重要な契約、資産及び負債、人事・労務、訴訟・紛争、許認可・コンプライアンス・環境問題等といった観点から調査するケースが多い。

特に重要なことは、法的な問題点が判明したときに、それが中小 M&A 実行にどのような影響を与え得るのか把握することである。判明した法的なリスクや現実的な対応策については、依頼者に説明できるように可能な限り整理しておくことが望ましい(法務 DD 前に法的な問題点が判明した場合も同様である。)。

なお、例外的に、譲り渡し側が、弁護士に依頼して法務DD を行うこともある(セラー

ズ DD)。

⑤ 債務超過企業に対する中小 M&A 支援

債務超過企業であっても、譲り受け側にとって事業に魅力を感じられるような場合には、中小 M&A が実現する可能性が見込まれる。この場合、弁護士は主に以下の観点を踏まえて支援を行うことが望まれる。

ア 資金繰りへの配慮

資金繰りは、資産超過状態の企業や利益計上できている企業でも問題となり得るが、特に債務超過企業は資金繰りに余裕のないケースが多く見られるため、資金繰りに配慮する必要がある。資金繰りが確保できている間は譲り受け側(スポンサー)探索等のための時間的余裕があるが、早期に資金繰りが尽きること(資金ショート)が見込まれる場合には、それについての対応を検討することが重要となる。

まず、譲り渡し側経営者からのヒアリング等を経て資金繰りへの懸念がある場合には、資金繰り表を作成の上、可能な限り月次(月繰り)に留まらず日次(日繰り)レベルまで資金繰りを具体的に把握し、資金ショートの時期を確認する必要がある。その際、表面的な資金繰りの把握に留まらず、依頼者からの相談の時点において既に未払が生じていないか等、実質的な内容まで踏み込んで把握しておくことが望ましい。

例えば、金融機関への元金・利息、公租公課、仕入先への買掛金、従業員への給料等のいずれかの未払が生じている場合に、未払が生じたばかりであるのか、又は、既に内容証明郵便や督促状等を受領しているのか等を確認しておくことで、事業や信用の毀損が進行していないか、どの債権者との交渉等に重点を置く必要があるのか等を認識することが可能になる。特に、仕入先への買掛金や従業員への給料に未払が生じている場合には、事業や信用の毀損が生じているおそれがあるため、注意が必要である。手形を利用している場合には、不渡りのリスクも把握する必要がある。

また、早期の資金ショートが見込まれる場合には、予定している支払の中止を検討することがあるが、可能な限り事業や信用の毀損が生じないよう、対象となる支払は慎重に検討して決定する必要がある。なお、信用保証協会等の公的機関や日本政策金融公庫等の政府系金融機関等を利用した資金調達が可能なケースもある。

イ 私的整理手続の検討

債務超過企業の中小 M&A において、当該企業が金融機関からの借入等が多く、金融機関に対する債務(金融債務)の支払が資金繰りを圧迫している場合には、まずその元金等の支払の猶予(リスケジュール)を受け、裁判所の関与なしに、交渉により債務減免等に関する金融機関の同意を得ていく手続(私的整理手続)を検討することが望まれる。私的整理手続は、裁判所の関与下で行う債務整理手続(法的整理手続)と異なり、官報等により公表されないため、事業や信用の毀損を防ぎやすい。

債権者との交渉をより円滑に進めるためにも、各都道府県に設置されている中小企業再生支援協議会や、裁判所の関与下で行うものの官報等により公表されない特定調停手続等といった、一定の手続準則を示した第三者的機関の関与下において行う私的整理手続(準則型私的整理手続)の実施を目指すことが望まれる。

事業再生局面においては、別会社(第二会社)に譲り渡し側の事業を移転し、第二会社において事業の再建を目指すという方式(第二会社方式)を選択することが多い。

その際には、中小企業再生支援協議会の関与下で事業譲渡等を実行し、その後の譲り渡し側の会社を特別清算手続で整理したり、特定調停手続を実施したりする等の手法を採用するケースが見られる。

ウ 法的整理手続の検討

債務超過企業の中小 M&A において、当該企業が金融債務のリスケジュール等だけでは資金繰りを維持できない場合には、仕入先に対する債務(取引債務)の整理も含め、民事再生手続等の法的整理手続を検討することになる。ただし、法的整理手続を申し立てた場合には、事業と信用の毀損が一定程度生じることは不可避であるため、企業価値・事業価値の保全のためには、可能な限り私的整理手続を目指すことが望ましい。

仮に、資金繰り等の観点から法的整理手続の申立てがやむを得ないとしても、可能な限り早期に適切なスポンサーの選定を目指し、可能であればスポンサー選定後に申立てを行う、いわゆるプレパッケージ型法的整理手続を目指すことが企業価値・事業価値の保全という観点からは望ましい。ただし、裁判所や監督委員等に対しては、スポンサー選定手続の透明性・公正性を合理的に説明できる必要がある。

エ 適正対価での事業譲渡等の必要性

債務超過企業である譲り渡し側が中小 M&A において事業譲渡等を実行する場合に、事業譲渡等の対価が不当に低額であり、適正な対価が譲り渡し側に支払われないケースでは、債権者(特に金融機関)から詐害行為取消権(民法第424条)を、監督委員等から否認権(民事再生法第127条等)を行使される等のリスクがある。少なくとも、破産したと仮定した場合の企業価値・事業価値(清算価値)を相当程度超える金額での事業譲渡等が要求される。可能な限り事前に適切な説明を尽くした上、債権者等の了承を得ておくことが望ましい。

オ 一部事業譲渡等の可能性の検討

企業全体として利益計上ができない債務超過企業でも、部門別あるいは店舗別等で切り分けて精査すると、黒字の優良事業を有することも多い。完全廃業せず、こういった一部事業のみを事業譲渡等により譲り渡すことは、譲り渡し側にとって従業員の雇用の受皿を最大限確保し、譲渡対価を可能な限り最大化することにもつながる。

また、残りの事業を廃業する場合は、譲渡対価を廃業費用に充てられる可能性もある。

この場合、当該一部事業に関与している役員・従業員に対して事業譲渡等を行うという選択肢もあり得る。もともと当該事業についての経験・ノウハウを有しているため、円滑な業務の引継ぎが実現しやすい。

利益計上できない債務超過企業であっても、最初から破産手続等による完全廃業のみを検討するのではなく、資金繰り等の観点でも現実的に検討可能な場合には、一部事業譲渡等も含めて、譲り渡し側にとって最良の選択を検討することが望ましい。

カ 税務上の注意点

譲り渡し側である債務超過企業が債権者から債務減免を受ける場合には、債務免除益が発生し、これについての課税が弁済計画(再生計画)の原資に影響を及ぼし得ることから、債務減免の金額が大きい場合には、特に注意する必要がある。債務免除益を相殺するに足りる欠損金(原則として青色欠損金であるが、法的整理手続や一定の私的整理手続の場合等には期限切れ欠損金も利用できる場合がある。)や資産評価損等があるか否かが重要となる。

この点については、債務超過企業の顧問税理士等とも連携の上で、必要に応じて課税リスクについても確認しながら、手続を進めることが必要である。

キ 経営者保証に関する処理

経営者が会社の金融債務等の保証人となっているケースは多い。このような経営者保証は、譲り渡し側経営者にとっても重要な懸念事項であり、これを適正に処理することが中小 M&A の促進にも資すると言える。

「経営者保証に関するガイドライン」を活用することにより、保証債務を免除され自由財産以上の資産(一定期間の生計費や華美でない自宅等)を残せる方策を検討する必要がある。また、以下の整理手順・手引も、必要に応じて活用することが望まれる。

〇中小企業庁が策定した整理手順

・ 「中小企業再生支援協議会等の支援による経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務の整理手順」(令和元年6月26日改訂)

〇 日本弁護士連合会が策定した特定調停スキーム利用の手引

・ 「【手引1(一体再生型)】事業者の事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」

・ 「【手引2(単独型)】経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の手法としての特定調停スキーム利用の手引」

・ 「【手引3(廃業支援型)】事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」

(いずれも令和2年2月19日改訂)

(3) 他の支援機関との連携

中小 M&A に関わる業務は専門性を有し、かつ、多岐にわたる。必要に応じて、事業引継ぎ支援センターや中小企業再生支援協議会等の公的機関、M&A を専門とする士業等専門家や M&A 専門業者といった他の支援機関と連携して業務を進める必要がある。

特に、中小 M&A においては、法務面だけでなく財務面・税務面等の検討が必要となることが少なくないため、弁護士は公認会計士・税理士等と積極的に連携するよう心掛けるべきである。

また、事業譲渡等の承継対象財産に不動産を含む場合や、会社分割・合併等の場合、クロージング後速やかに登記手続が必要になるため、最終契約締結前の早い時期に、司法書士に対し当該契約に係る契約書等その他の登記必要書類につき、照会・確認しておくことが望ましい。

5 その他の士業等専門家

以上の士業等専門家のほか、中小 M&A に係る手続においては、行政上の許認可関係の手続等を担当する行政書士、登記関係の手続等を担当する司法書士、労働及び社会保険関係の手続等を担当する社会保険労務士、といった士業等専門家が関わることも多い。

これら士業等専門家も依頼者ないし顧問先等において中小 M&A に関する相談等を受けた場合には、他の支援機関と連携の上、中小 M&A を円滑に実現するために業務、職責に応じて適正な支援が望まれる。

VI M&A プラットフォーマー

1 M&A プラットフォーマーによる支援の特色

M&A プラットフォーマーは、インターネット上のシステムを活用し、オンラインで譲り渡し側と譲り受け側のマッチングの場(M&A プラットフォーム)を運営する者である。各 M&A プラットフォーマーにおいて、利用対象者や利用方法等は異なるが、一般的には譲り渡し又は譲り受けを希望する事業者が自らインターネット上で M&A プラットフォームに登録し、当該 M&A プラットフォームを閲覧することによりマッチング候補先を探すことができるため、簡便かつ低コストでのマッチングが可能となる。

M&A プラットフォーマーは、中小 M&A の全ての工程において多額の費用を掛けられない、又は、M&A 専門業者等に依頼することを躊躇して中小 M&A に踏み切れない中小企業等に対して、中小 M&A を後押しできる立場にいる。

2 主な支援内容

(1) マッチングの機会の提供

M&A プラットフォーマーは、M&A プラットフォームを提供しているが、今後、当該M&A プラットフォームの更なる利便性や安全性の向上を図ることが望まれる。また、今後、譲り渡し側・譲り受け側当事者に加え、保有する案件情報が少ない支援機関においても M&A プラットフォームの利用が促進されることで、更なるマッチングの機会の拡大が望まれる。

(2) 後継者不在の中小企業に対する中小 M&A に係る意識醸成

M&A プラットフォーマーはマッチングの場の提供のほか、自身が運営する M&A プラットフォームが関与した M&A の成約事例等の発信等、インターネットを通じて広く中小M&A の重要性等を発信している。

今後、M&A プラットフォーマーはインターネットを中心に、譲り渡し側である後継者不在の中小企業及び譲り受け側の双方に向けて、中小 M&A に係る意識醸成を図るために、各種のコンテンツや支援ツールを提供していくことが望まれる。

3 中小 M&A 支援に関する留意点

以下、M&A プラットフォーマーに関する留意点を記載する。

(1) サービス内容の明確化

M&A プラットフォームの仕組みや情報の開示範囲、料金体系等を含むサービス内容は、M&A プラットフォームによってそれぞれ違いがある。M&A プラットフォーマーは利用者が安心して M&A プラットフォームを活用できるよう、当該 M&A プラットフォームのサービス内容を分かりやすく明確に表示し、利用者がサービス内容を真に理解して M&A プラットフォームを活用できるよう努めるべきである。

(2) 掲載案件の信頼性

M&A プラットフォームは案件掲載が容易になる仕組みであるが、それゆえに、譲り渡し側・譲り受け側の双方にとって、掲載案件の信頼性については留意が必要である。具体的には、以下の点に留意すべきである。

① 掲載案件の実在性の確認

M&A プラットフォームへの案件掲載は容易であるがゆえに、実在しない事業者や譲り渡し・譲り受けの意思のない情報等を掲載することも可能である。そのため、M&Aプラットフォーマーは掲載された案件の実在性について、法人番号等による確認の仕組み作りや掲載事業者の意思確認を確実に行うことが望まれる。

② 掲載案件の進捗状況の確認

M&A プラットフォームに掲載された情報が過去の情報であり、現在は状況が変わっていることがあり得る。その場合、交渉をしようとしても、徒労に終わってしまう可能性があることから、掲載された情報の進捗状況を可能な限り正確に反映するため、システム上の工夫や掲載事業者への確認を可能な限り行うことが望まれる。

(3) 他の支援機関との連携

前述のとおり、他の支援機関における M&A プラットフォームの利用や複数の M&Aプラットフォーム間での連携がマッチング機会の拡大に大きく寄与することから、M&Aプラットフォーマーはこのような連携を拡大していくために、積極的に他の支援機関に働き掛けていくことが望まれる。

また、中小 M&A はマッチング後にも様々な工程があることから、マッチング後の支援も重要である。したがって、一部 M&A プラットフォームが導入しているような、中小 M&A の支援に精通した M&A 専門業者や士業等専門家等との連携や、当事者同士による手続進行を IT 活用等により支援する仕組みの整備、事業引継ぎ支援センターとの連携を行っていくことが望まれる。

 


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